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海の魔物(壱)
まだまだ気温が下がる様子の無い8月の下旬。
この日真尋は大学の友人と海へやって来た。
やはり夏と言ったら海だろう。
真尋は海で遊ぶ気満々で、浮き輪やビーチボールを持ってきたのに、友人の花田優美と三村直樹は洋服のまま浜辺で妖怪の話しばかりしている。
「ねぇ、海行かないの?」
「私は海に入るより砂浜で貝殻拾いとか、お話ししたい」
「僕も、なんか思ってたより派手な人多いし、海入らなくてもいいかな」
いや、だったら何故来た?
折角ワイワイガヤガヤ遊ぼうと思ったのに二人ともあまり乗り気じゃない。
「ここに来たからには人食い妖怪よね」
「知ってる。この海で人魚みたいな妖怪が人を襲ったって」
いつの間にかまた妖怪の話しになっている。
と言うか………
「人食い妖怪?」
気になるワードが飛び出した。
「そう、この海で人を襲う下半身が鱗の人魚みたいなのが目撃されたらしい」
三村がそう答えるが、あくまでも妖怪好きの間での噂らしい。
「へぇ~………」
こう言う話しにはさほど興味は無い真尋だが、一つ気になる事が……
「二人とも付き合ってんの?」
そう言いたくなるくらいに仲が良い。
真尋なんて蚊帳の外であるが、二人はそれを否定する。
「無いわよ。
彼とは共通の趣味の友達」
「中々妖怪好きの人がいないからね。
花田には遠慮なく話せるから楽しいよ」
妖怪の何がそんなに面白いのか分からない妖の血を引く真尋。
彼らにはその事は言っていないので、もし天狗の血を引くと言ったらどんな反応をするのだろうかとたまに考える。
「でも折角高住君がボールとか持ってきてくれたから、一緒にビーチバレーでもしましょ!?」
花田がそう言ってくれたので、真尋がボールを膨らませて、三人で浜辺でボールを落とさないようにスパイク打ったり、レシーブしたりして回しながら遊んだ。
二人とも運動は苦手なのではぁはぁ言いながら動いているが、それでも楽しそうにはしゃいでいる。
最初は何をしに来たんだと、来たことを後悔しかけた真尋だが、来て良かったと言う感想に変わる。
「高住君上手よね。
何かスポーツでもやってたの?」
息切れする事もなく動きも良いので、そう花田が聞いてくる。
「いや何も。
俺もそんな運動する方じゃないし」
「それなのにこんな動けるの?
凄~い」
おそらくこの身体能力は妖の血が関係しているのだろうが、本人は自分は人間と思い込みたいので妖の能力と言うのは褒められて嬉しいものの、少々複雑だ。
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