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真尋が海へ遊びに行っている間、利音は人の姿をした緋葉と共に懇意にしている寺の住職の如月の元へ足を運んでいた。
若い僧侶に部屋に案内され、如月を待つ事約2分後に如月が少し急ぎながらやって来た。
「宗像さん、お待たせ致しました。
………おや、今日はまた新しい方がご一緒に」
緋葉を見て一瞬如月が体をビクリと震わせた。
どうやら人では無いと気が付いたようだが、利音が連れてきたので大丈夫なのだろうとすぐさま笑顔で対応する。
「緋葉と申す。
どうか、私の事はお気になさらず……」
背が高く、強面な顔の彼が丁寧にお辞儀をする様子に少しタジタジになるが、ご丁寧にどうもと、如月が返す。
「今日は高住さんは一緒では無いのですね」
「ええ。彼一応学生なんで、今は青春を謳歌中ですよ」
「それはそれは、楽しそうで何より。
学生と言うのは一番楽しい時期でしょうからね」
いつも利音に着いてくる真尋がいないことに不思議な様子だったが、事情を聞くと納得した様子で笑う。
そんなやり取りをした後、如月は笑顔を消し本題に入った。
「宗像さん、今日貴方に来て頂いたのは他でもありません」
今回も如月に呼ばれたのだが、今までと少し事情が異なるらしい。
如月は重い口を開いた。
「人を襲う人魚の事でご相談を」
「人魚?」
「はい……」
如月によると、知人の男性が夜の海で人を襲っている人魚を目撃したとの事。
夜なので暗くてはっきりとは見えなかった上に海にいたので全体像は分からなかったが、黒く長い髪をした女の上半身に、月明かりに照らされ、青緑色に鈍く光る鱗の下半身が見えたとの事。
その知人は浜辺にいたが、人魚と思われるその妖に気付かれ、顔を見られた。
男性は急いでその場から逃げ帰ってきて無事だったが、顔を見られたことに不安を抱き、如月に相談しに来たとの事。
「人魚ねぇ……
人が人魚を食った話しは聞くけど、その逆って聞いたこと無いんだけど、君知ってる?」
人を食う人魚の話しを知らない利音は緋葉に聞いた。
「いえ、私も聞かぬな。
そもそも人魚はそれほど凶悪な妖とは言い難い……
しかし、それはあくまで想像であるから、実情は違うのかもしれぬ」
緋葉も人を襲うと言う人魚には懐疑的だが、もしかしたら人魚の中にも妖でさえ知らない生態があるのかもしれないと、否定はしなかった。
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