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海の魔物(弐)
夜まで時間があるので、もう一度浜辺へ行ってさっきまで無かった何かや、気付かなかった事は無いかと探してみるが、やはり無い。
「本当にここに何かあるんですかね?
ビックリするくらい何も感じないんですけど……」
これだけの人混みで紛れ込んでいるかもしれないが、本当に妖がいるのかと言うくらい何も無い。
と言うか、本当に妖の気配が無いのだ。
普通なら人の目に映らないような小さな妖がぽつりぽつりといてもいい筈なのだ。
なのにここには一切いないのは逆に違和感を覚える。
ならばやはり、強大な何かが隠れているのか………
そんな男二人が難しい顔で浜辺を歩いているシュールな状況。
それに栗郷は凄くピリピリしていて、妖刀を持つ彼が何だか物騒で居心地が良くないなと思った真尋は彼の後ろへ移動し、水を掛けた。
「冷てっ!!
……って、テメェ何しやがる!?」
「いや、だってやっぱ海来たら海で遊ばないと意味無くないですか?」
「俺は遊びに来たんじゃねぇって!!」
栗郷は天明道の任務でやって来ただけである。
「でもどうせ夜まで時間あるじゃないですか。
遊ばないと損ですよ」
「テメェはよ…………」
能天気な奴だと呆れる。
相手の妖がどんな奴かも分からない上、下手したらこちらも命があるかどうかさえ分からないと言うのに。
もう一言彼に文句を言ってやろうと口を開いたその瞬間。
ザバーンと波が襲ってきて、ズボンがびしょ濡れになってしまった。
「………………」
「やっぱ遊べって事ですよ」
真尋も同じように濡れてしまったのに平然とそう言った。
もう溜め息をつくしかない栗郷は開き直ってお返しとばかりに真尋の顔面に海水をぶちまけた。
「うぎゃっ……!!
口入った!!うげっ………」
砂まで口に入ったようで、舌を出してペッと吐き出している。
それを自業自得と栗郷はふんっと笑う。
そしてまたお返しと真尋が水を掛け、栗郷がし返すの繰り返し。
端から見れば海に遊びに来た仲の良い青年二人である。
「あ~あびしょ濡れじゃねぇか。
塩クセェ………」
思いっきりはしゃいだせいで全身塩水だらけだ。
最悪と栗郷は呟くと、何かの気配に気付いた。
目を凝らして遠くを見ると、見知った人物を発見した。
「宗像?」
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