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レールから外れた人生(下)
雲外鏡の件からおよそ一週間。
ここの所利音はよく誰かと連絡を取っていた。
この日の夜も誰かと電話をしている。
まぁ恐らくは佐倉か実家の誰かと話しているのだろうが……
そして電話を終えて居間へ戻ってくる利音は深くため息をつく。
「憂鬱そうですね」
「まぁね……
佐倉からだけど、母親が帰って来いって言ってるらしい」
「利音さんのお母さん?」
「そ、顔くらいたまには出せってさ」
いくら家と縁を切ったと言えど、血の繋がりは消えない。
母親も息子の事は気になっている。
「しょうがない。
ほんのちょっとだけ顔出してさっさと帰ればいいか」
どうせ父と顔を合わせれば喧嘩になって、また家から追い出されるだろうから、そうなればさっさとここに戻ってくればいいと考える。
家に一度顔を出すと利音は実家に連絡すると後日佐倉が車で迎えにきた。
「………」
黒塗りの高級車で来た佐倉に真尋は言葉が出てこなかった。
こんなしがない骨董屋の前にこの車は怪しい。
ご近所さんに見られたら、その筋の人に目を付けられたとか、怪しい店だと変な噂が立ってしまうのでは真尋は不安になる。
佐倉はそんな真尋を他所に、挨拶をしに来る。
「高住さん、ご無沙汰しております」
「あ、はい……どうも」
軽く会釈し、挨拶を返す。
すると利音は真尋にこんなことを言い出す。
「ねぇ、真尋もおいでよ。
俺の実家一緒行こう」
「は?」
突然の提案だった。
元々誘われてなかったのに帰る直前に言われても困る。
そもそも利音の実家に真尋が行く理由もない。
しかし利音としては真尋と言う客がいれば、あまりグチグチ言われずに済んで、さっさと帰れるのではと考えたのだ。
だが真尋はあまり乗り気でない。
なので利音は佐倉を巻き込む。
「ねぇ佐倉、普段真尋には世話になってるんだから、宗像家としてもおもてなしは必要でしょう?」
「世話に………?」
世話になってるなんて絶対に思ってないくせに何を言ってるんだと真尋は混乱する。
佐倉もそう言われてしまえば否定も出来ないので、真尋もどうぞと言う態度だ。
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