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「…………」
黒塗りの高級車の後部座席には利音の他に真尋と、烏姿の緋葉がいた。
結局誘われて拒否出来なかった真尋は嫌々着いて行くハメになってしまった。
ただでさえ利音は実家と確執があるようなのに、そんな中に真尋が着いていくなんて居心地が悪いに決まっている。
憂鬱そうな顔をする真尋に利音は軽い口調で言葉を掛ける。
「大丈夫大丈夫。
取って食おうなんてしないから」
「そう言う問題じゃ無いんですけど」
そう抗議するもスルーされる。
そうこうしている内に車が停まった。
窓から外を見てみると目の前に大きな和風の門が覗いた。
すると佐倉が降りて、後部座席のドアを開け、真尋に降りるよう促す。
ゆっくりと降りて門の前に立つが、とても普通の家には見えない。
左右見渡してもずっと先まで高い塀が続いているのだ。
しかし門の横には、宗像と言う表札があるので、利音の家に間違い無さそうだ。
「ここ利音さん家ですか?」
一応確認する。
「そうだよ」
やはりここが利音の家のようだ。
門の前に立っていると、突然門が開いた。
「お帰りなさいませ利音様」
頭を下げて出迎えたのは老齢の男性と中年女性の二人。
まるで執事と家政婦のように見える。
利音は一言ただいまと言ってずんずんと中に入っていくので、真尋も続いた。
門の中へ入ると、まず立派な日本庭園が目に飛び込んで来た。
更には庭を進むとこれまた立派な屋敷が現れる。
一体どれくらい広いのかと思うくらい広く大きな家に真尋は萎縮する。
「利音さん利音さん」
「何?」
「利音さんってめちゃくちゃお坊っちゃまなんですか?」
「そんなことはないけど」
そんなことあるだろと自分がお坊っちゃまであることを否定する利音に真尋はつっこむ。
そして家の戸を利音が無造作に開け、入ると一人の女性が待ち構えていた。
「お帰りなさい。
久しぶりね利音さん」
「…………母さん」
玄関で待っていた利音の母、千鶴。
淡い黄色の着物姿で、長い茶髪をうなじあたりでお団子に束ねている彼女は凛とした佇まいで、更に若々しく美しい。
「え、利音さんのお母さん……?」
真尋がそう呟くと、母千鶴は真尋へ目を向け、にっこりと笑みを向ける。
「いらっしゃい。
息子がいつもお世話になっております。
母の千鶴です」
「え、あ、はい、いえ……
高住真尋です。利音さんの所でバイトさせて貰ってます」
丁寧に挨拶され、真尋も背筋をピンと伸ばし、失礼の無いようにと挨拶を返す。
「高住真尋さんね。
どうぞ御上がりになって」
そう千鶴が言うので、お邪魔しますと家に上がる。
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