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妖を滅する組織を創ったのが、人では無い可能性がある。
それは天明道にとっては重大な問題である。
「創始者が妖かも知れんなんて、天明道の存続も危うくなりますからね。
知られとぉ無いでしょうね」
野々村は少し高揚したように語る。
「え、創始者が妖だったとしても何か問題なんですか?」
問題をイマイチ理解していない真尋が首を傾げる。
「問題だよ。
妖を滅する為の組織をさ、なんで妖が創るわけ?
目的が分からない薄気味悪さ、それにボスが妖でしたなんて妖を嫌悪する奴に言えないでしょ」
「なるほど」
妖がこの組織を創ったのなら何のため?
混血ならば理解出来る部分があるが、真尋が出会った天明道の菅原は混血でさえ嫌悪していた。
そんな人が妖の血を有している者の下で働く事を嫌がって、離れられては困る。
最悪反乱が起こり、血が流れる恐れもあるので決して公には出来ない。
面白い噂を知った利音はその内自分でも調べてみようなんて考えるが、その心を読んでか野々村が、勝手な事をしないようにと釘を刺した。
「それに天明道内部は何やら不穏ですし」
「不穏?」
野々村の言葉にどう言う事かと真尋が訊ねるも、彼はにっこり笑うだけで答えず、話題を逸らした。
「ところで利音さん。
身の内に面白いもん飼ってはるようですが、一体それどないするおつもりで?」
野々村が見ているのは利音の陰に潜む犬神のネコだ。
彼は利音の中に存在する犬神を見抜いていた。
利音はそう言えば出してやるのを忘れていたとネコを外へ出してあげる。
「麟太郎様がお知りになったら怒るんとちゃいますの?」
野々村がそう懸念する横で、真尋がネコの顔を撫でながら、野々村の言葉がどう言う事かと利音を見る。
「犬神ってのは家に憑く妖だから、例えば俺が死んだら俺に一番近い宗像家の誰かに憑く。
要は俺に何かあってうちの誰かに憑いたら手に負えないかもって事でしょ?」
なるほど、と思いつつ疑問は晴れない。
「え、でも利音さんみたいに普通に調伏して飼えばいいんじゃないですか?」
「そんな簡単にゆうけど、誰でも彼でも調伏出来るわけや無いで?
犬神は飼い主でも喰えると思うたら喰うからなぁ。
利音さんやから飼えてる」
家に憑くと言う犬神は利音が死ねば彼の血縁の者に憑くだろう。
そうなればきっと、利音より弱い者は喰われてしまう。
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