レールから外れた人生(下)

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 今はまだ学生なのだから勉学に励めと麟太郎は言った。  するとリビングのドアがトントンとノックされ、佐倉の声で宜しいですかと聞こえた。 「すみません、利音さんがまだかとおっしゃっております」 「全く、これくらいも待てんのかアイツは」  どうやら利音は遅いから見て来いと佐倉に命じたようだ。  短気な息子に苦言を呈す麟太郎は真尋に、もう行って良いと解放してくれた。 「愚息が迷惑を掛けると思うが、アレを頼む」 「………はい」  愚息と辛辣に言いながらも真尋に頼むくらいには大切な存在らしい。  真尋は利音の両親に失礼しますと一礼して、佐倉と利音の待つ玄関へと急いだ。 「遅い!!」 「そんな事言われても……」  悪態をつく利音に少しキレながらも、車の後部座席へと乗り込む。  佐倉が運転席へ乗り、車を走らせる。  そして麟太郎に言われた事を利音に話した。  他言するなとは言われてないので、話しても良いはずと思いながら。 「………何考えてんだあのクソ親父は!?」  利音は不快感を露わにする。  そして真尋に宗像家に入るのは絶対にダメだと言われた。  何故かと聞いても、何ででもと具体的な理由は教えてはくれなかった。 「クソ親父なんかに渡すかよ」 「え?」  ポツリと溢した利音の発言は意外なもので思わず彼を二度見してしまう。  渡すかよとは渡したくないと捉えると、ただの同居人兼バイトとしか認識してないと考えていたのに何故そう思うのか非常に気になった。 「えっと、利音さんって意外と俺の事好きとか?」 「何言っての気色悪い。 別に深い意味なんて無いよ。 丁度良い働き手がいなくなるのは困るってだけ」  そう強く否定され、真尋はなんだか彼の言い方に既視感を覚えた。  すると運転している佐倉がクスリと笑ったように聞こえた。  滅多に表情を表に出さないポーカーフェイスの彼が笑うなど聞き間違いかと佐倉を見るが、後部座席からは顔が見えないので分からない。  しかし利音の視線に気付いた佐倉がすみませんと笑った事を認め、こう言った。 「素直で無い所は親子そっくりですね」 「…………うるさい」  佐倉の言葉に利音は余計に不機嫌になり、言葉の真意を理解していない真尋はただ頭の上にはてなマークを浮かべるだけだった。  
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