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墓地の陰気
「これ、捨てよっかな」
一冊の昆虫図鑑を片手に持つ真尋。
この日は予定もなにもない土曜日で、秋人の家で片付けをしていた。
と言うのも、秋人がそろそろ引っ越しを考えているので、真尋の私物もいるものといらないものの選別をしなければならなかった。
引っ越しと言っても今すぐと言うわけでは無いので、気が向いた時にちょこちょこと帰ってきては、少しずつ断捨離を行っていた。
そして現在手に持っている図鑑は、この家に来てすぐに秋人に買って貰った思い出の図鑑なので、中々捨てられずにいたが、もう見る事もないので思いきって捨てようと決断した。
「真尋、そろそろお昼食べようか」
「ああうん」
昼食の準備をしていた秋人が呼びに来たので、片付けは中断してリビングへ向かう。
テーブルの上には既にチャーハンの皿が置かれていた。
「簡単で悪いな」
「十分だよ」
動いて腹が減った真尋は頂きますと手を合わせた後、勢いよく口の中へと掻き込む。
食べ盛りの真尋の食欲に秋人も笑顔を浮かべながらスプーンを口に運ぶ。
「そうだ、この前利音さんの実家に行ってさ」
「実家?」
宗像麟太郎にうちに来ないかと誘われたことを一応秋人の耳にも入れておかなければと、経緯を話した。
話しを聞いた秋人はみるみる表情が険しくなっていく。
「はぁ………なんて事だ………」
真尋が宗像家に接触しただけでなく、宗像麟太郎から直々に後ろ楯になるなどと言われた事に秋人は頭を抱えた。
「利音さん家行ったのダメだった?」
不安そうに聞く真尋。
秋人は苦笑しながら大丈夫だと安心させる。
しかし何故真尋の後ろ楯になると言ったのか、真意が分からないのでは不安である。
真尋を利用したいだけなのなら当然宗像家に行かせるわけにはいかない。
それに朱兼と同じことを言っているのは偶然だろうか?
「実はな、朱兼さんもお前が天明道に入るのであれば後ろ楯となりたいとおっしゃってくれた。
まぁあくまでお前が決めることだが」
「朱兼さんが………?」
同時に二人から後ろ楯になると言われ、将来的には天明道に入らなくてはいけないのだろうなぁと段々と現実味が増していく。
「嫌なら嫌と言っていい。
大学を卒業しても、お前の好きな道に進めばいい。
好きなことを精一杯やってからでも問題は無いのだから」
若い内はやりたいことをやるべきだと秋人が助言する。
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