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沢山考えなければならないが、ひとまず面倒な事は置いといて、秋人の言う通り今は勉強とバイトを頑張ろうと思う。
どうせなるようにしかならない。
「今日は泊まるだろう?
なら明日、墓参りにでも行かないか?」
お盆に墓参りに行かなかったので、明日一緒に行こうと秋人が誘った。
「ああうん、いいよ。行く」
どうせ明日は暇なので行ける時に行きたい。
曾祖母や祖父の事を母や秋人に聞いて、より身近な存在として捉えられて想いを馳せる。
翌日、真尋と秋人は蝋燭や線香など墓参りグッズをカバンに入れて家を出る。
墓までは秋人が運転するレンタカーで向かう。
山の中に墓地があるので車で無いと行けないのだ。
因みに秋人の免許証は天明道の計らいで見た目の年齢に見合うよう生年月日などを変えて渡してくれる。
これも天明道と政府の結び付きが深いお陰である。
「あのさ、墓に俺のひいひいお祖父ちゃんはいるの?」
確か緋葉から高祖父、貴眞は殺されたと聞いた。
真尋の問いに秋人は少し顔色を曇らせながら真っ直ぐ前を見つめ、ゆっくりと話し始める。
「墓にはいない。
父の最後がどうなったのか、或いは亡骸が何処に行ったのか何も知らないんだ」
当時は秋人も12歳くらいの子供だった。
覚えているのは父、貴眞が最後に家を出る時に、行かないでとせがむ秋人の頭を、困った顔をして撫でてくれた事だ。
あの時の父の顔が一番印象に残っていて、今でも忘れられない出来事だ。
貴眞は人と交わった事で身内から激怒され、妻と息子を殺すと言われた。
ならば自分の命を差し出す代わりに、妻と子には手を出さないようにと約束させた。
家族を守って死んだ貴眞を秋人は未だ心にわだかまりを抱えていた。
どうして父が死なねばならなかったのかと………
初めて秋人の口から語られる高祖父の事に真尋は言葉が出なかった。
父親の犠牲の上に自分の命があるその苦悩は計り知れない。
けれど一つ言えることはあった。
「天狗は人嫌いって聞くけど、人を好きになれる天狗もいるのってなんか嬉しい。
妖を信用するなって言われたけど、秋人さんの話し聞いて、やっぱそうじゃないって俺は思った」
「真尋………」
真尋のその言葉は秋人には思ってもみない答えで、思わず助手席に座る彼を一瞥した。
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