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麟太郎から天狗を信用するなと、裏切るかもしれないと言われたが、人である自分の妻や息子の為に命を投げ出せる貴眞の事を真尋は悲しくもあり、同時に誇りにも思った。
貴眞が秋人を守ってくれたお陰で自分や母、兄弟、伯父や従兄弟が存在出来ているのだから………
「ひいひいお祖父ちゃんに感謝だ」
「…………そうだな」
感謝。その通りだ。
父が自分を守ってくれたお陰で真尋とこうして墓参りに行ける。
この子達へ命を繋いでくれたのだ。
ずっと父の死を引きずっていた。
だから誰かに父の事を語ることも、思い出すこともつらくて、なるべく彼の話題を避けてきた。
けれど真尋の感謝の言葉で、心につっかえていたものが少し解れた気がした。
「ありがとう真尋」
「何が?」
何がありがとうなのだろうかと聞いても秋人は、はにかんだだけで教えてはくれなかった。
そして秋人はちゃんと父の死と向き合い、やるべき事がはっきりしたと前に進む決意をする。
それから車を走らせること1時間。
助手席の真尋はいつの間にか眠ってしまっていた。
山道に入り、砂利道で石を踏んでガタンと車が揺れると、真尋の目も覚める。
「もうすぐ着くぞ」
「ああ、うん………」
案外深く眠っていたようで頭が冴えるまで少し時間が掛かった。
ふわ~っと大きなあくびをすると、車が停止する。
一応この場所は墓地の駐車場らしいが、整備されておらず、草がぼうぼうである。
「足元、気を付けろ」
「うん」
あまり人が立ち入らないので、足場が悪い。
この地域も過疎化で人が少なくなってしまったので仕方無いが、あんまりに手入れされないのは困る。
駐車場から2~3分歩くと墓地へ到着する。
5~6基しかない墓は、寂しくそこにあって、中には長年手入れされていないのか、枯れ葉が積もっていたり砂や土で墓石の文字が隠れてしまったりしている。
その中の一つの春日家之墓と書かれた墓の前へやってくる。
幸いここは真尋の親族がたまに来るお陰で比較的綺麗な状態を保っている。
真尋はバッグから蝋燭とチャッカマン、線香を取り出し、燭台に蝋燭を立てると火をつけて、線香を翳す。
線香を香炉に立てて、秋人と手を合わせる。
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