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「ああそれと、早々に逃げ出した軟弱な陰摩羅鬼とオレを一緒にするんじゃねぇよ」
空を舞う羅刹鳥はそう不満を露わにした。
どうやらもう一羽は陰摩羅鬼と言う羅刹鳥とは別の妖らしい。
こちらも初めて聞く名前で、真尋は秋人に知ってるかと聞くと一言、ああとだけ答えた。
「二対一………やっぱ不利だな。
しょうがない、今回は諦めてまたその内目玉喰ってやる」
そう言って羅刹鳥は一つ大きく羽ばたき、突風が真尋と秋人を襲う間に姿を消してしまった。
「自分も逃げてんじゃん………」
陰摩羅鬼を逃げ出した軟弱な奴と揶揄したくせに自分も結局は逃げたと同じ穴の狢ではないのかと思う。
しかしながら人を殺害した羅刹鳥は逃げてしまった。
早く退治しないとまた被害が出てしまうと危惧する。
取り敢えず天明道に報告せねばと秋人は考える。
それと隣にいる真尋に目をやる。
赤く染まっていた瞳は元に戻っている。
そしてまだ人の気配は残っている事に、安堵する。
と言うのも、いずれ真尋は人ではなくなると朱兼に言われたことを思い出したからだ。
今後真尋はどうなってしまうのだろうと不安が募る。
「て言うか陰摩羅鬼って?」
考え込んでいると真尋がそう聞いてきて、はっと我に返る。
「あ、ああ………陰摩羅鬼はきちんと供養されていない真新しい死体の陰気から発生する妖だ。
羅刹鳥と似ているが、羅刹鳥の方が凶暴だと聞く」
羅刹鳥は墓場の陰気から生まれる妖で、陰摩羅鬼は供養されていない死体の陰気から生まれ、形も似ていることから混同されやすいが、羅刹鳥の方が凶暴で人に化ける。
そしてこの情報を秋人は知らなかったが、羅刹鳥の体の色は灰色で、陰摩羅鬼は黒いのが二体を見分けるコツだ。
「陰摩羅鬼か……まさか………」
ぽつりと呟く秋人は、近くに倒れている二体の目玉をくり貫かれた遺体を見る。
もしやこの遺体の陰気から陰摩羅鬼が生まれたのではなかろうかと秋人は考えた。
早計な考えかもしれないが、もしそうならばなんと気の毒な事か………
「取り敢えず帰ろうか」
「うん」
早く天明道に知らせて羅刹鳥と陰摩羅鬼を滅しなければまた人が殺されてしまう。
それは何としてでも阻止しなければならない。
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