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突然現れた男に伊藤はあることに気付いた。
「貴方は科学研究部の、確か日野澤さん………
何故ここに?」
中年の日野澤と言う男は白衣を着て胸にはプラタナスと言う木の花のブローチがつけられていることから科学研究部だと分かる。
科学研究部とは妖の生態の研究や、対妖用の武器の開発など妖に関する研究を行っている。
噂ではかなりダーティーな実験まで行っているなんて言われている。
「何故?それはこちらの台詞だ。
こんな時間にまだ作業をしている者がいたので気になっただけだ」
日野澤は伊藤の背後にある明々とライトが光るパソコンに目線を向ける。
その視線に気付いた伊藤はパソコンを隠すように体を少しだけ移動させるが、その行為を男は見逃さなかった。
「君、名前は?部署は何処だ?」
「………っ、わ、私は………」
言えば自分が個人情報を不正に閲覧していた事がバレるかもしれない。
そう考えると言葉が出ずに、魚のように口をパクパクさせるしか出来ない。
「どうした?何故言わない?」
「い、いえ………」
眼鏡の奥から伝わる威圧感に冷や汗が止まらない。
額からも汗が流れ、顎を伝って雫が落ちる。
「言え、そうすれば見逃してやる」
「え………?」
日野澤はこんな夜遅くに一人でいた事と、動揺ししているのを見て、個人情報を勝手に閲覧していたのだと察した。
そして伊藤の肩に手を乗せ、彼の見ていたものを言えば見逃すと取り引きを持ち掛けた。
どうすると迫られ、伊藤は高住真尋と言う人物について気になって調べていたとあっさりと告白してしまった。
「………成る程、それは興味深い。
しかし、この事は他言無用。
決して口外するな」
「は、はい………」
微かに震える声で伊藤は返事をし、彼はニヤリと笑ってこれは二人だけの秘密だと言って伊藤をこの部屋から出し、一人じっくりとパソコンに目を通す。
「天狗か………」
日野澤は秋人のプロフィールを見てそう呟き、そっとページを閉じた。
暗くなったパソコンの画面には男の何か考えている顔が鏡のように映し出される。
「同居するひ孫とやらを調べさせてみるか………」
彼はブツブツと呟きながら時折笑い声を発して、研究室へと急ぎ戻って行ったのだった。
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