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人と妖(上)
この日一人の若い男性が骨董店にやって来た。
「あの………」
「はい、どうしました?」
男性は店のレジにいた真尋に話し掛けてくる。
しかし何故かおどおどしていて、何だか挙動不審である。
彼の手には紙袋が握られていて、真尋が少し視線をそちらにやると、ぱっとその袋を真尋の目の前に持ち上げて来て、少しビクッとしてしまった。
「え〜っと………?」
「あ、あの………これ、買い取って欲しいんですけど」
「買い取り………?」
どうやら男性は袋の中にある物を買い取って欲しいらしい。
真尋は少々お待ち下さいと、棚の商品をハタキで掃除していた緋葉に、奥の部屋で仮眠している利音を呼びに行かせた。
その間に真尋は接客をする。
「あの、中身を拝見しても宜しいでしょうか?」
「は、はい………お願いします………」
「………?」
どうもしどろもどろな彼が気になる。
まるで何かに怯えているような………
まさかこの品は盗品では無かろうかとピンと来る。
周りを気にする素振りはまさに盗品を売りに来た人のようである。
しかしそうと決まったわけでは無い。
もしかしたらただ単に人見知りなだけかもしれない。
取り敢えず中身を見てみる事にする。
袋の中を見ると、古っぽい長方形の木箱が入っていた。
取り出して見てみると、箱には何か書かれているがよく分からない。
一つ分かることは骨董品であると言う事だけだ。
すると奥から利音と彼を呼びに行った緋葉がやって来た。
「買い取りして欲しいって聞いたけど………」
「これです」
早速利音に木箱を見せる。
「怪異皆伝の書………?」
木箱の蓋に書かれた文字をすっと読む利音。
真尋はそう書かれていたのかと心の中で呟く。
しかし木箱の文字が分かった所で、利音もよく分からない様子だ。
「あの、買い取ってくれますか?」
男性は不安気な様子でそう聞いてくる。
「中身を見てみない事には判断出来ませんので」
至極当然に答える利音に男性は焦った様子で、早くして欲しいと急かす。
そんな男性を利音も不審に思ったようで、眉間に皺を作る。
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