人と妖(上)

4/12
前へ
/426ページ
次へ
 その夜、巻物を売った男は祖父が遺した家に一人で居たのだが、何かの陰に怯え、眠れないでいた。 「クソっ!!何でだよっ!?」  耳を両手で塞ぎ、目を固く瞑ってその陰を感じないようにしていた___    それから数日。  この日真尋は友達と遊びに出掛けているので店は利音と緋葉で見ている。   「ねぇ緋葉、この後、店閉じたらあの巻物に書かれた妖を召喚してみようと思うんだけど」 「………………」  普段クールであまり表情を変えない利音の口角が上がり、緋葉は遂にやるのかと覚悟する。 「どうせならもう店閉めようかなぁ」 「客が来るかもしれぬのに良いのか?」 「今日くらいいいじゃん。メンドいし」 「………………」  完全に売り上げよりも自分の趣味を優先している。  こうなってはもう周りも見えない。  緋葉は諦めて店じまいをしようと動き出したその時。 「すみません、ちょっといいですか?」  そこにやって来たのは数日前に巻物を売りに来た青年だった。 「すみません、あの……… この前売った巻物、やっぱり返してくれませんか?」  これから使用するつもりだった巻物。  それを今更返して欲しいと青年は言ってきた。 「そう言われてもねぇ………」  折角面白そうな物を手に入れたのに返したく無い利音は当然渋る。  そもそも何故今になって返して欲しいなんて言い出すのか………  すると青年は小刻みに少し手を震わせてお願いしますと頭を深く下げ懇願する。  彼の様子から何か焦りや不安を感じ、緋葉が事情を聞こうとする。 「何かあの巻物に感じる事があるのか?」 「………………っ」  しかし青年は何も言わない。  いや、言えないのか………? 「もしかしてあの巻物使ってみたとか?」 「………っ!?」  当たりのようだ。  ビクリと体が跳ねた彼を見てそう確信した。   「んで、何を視た?」  利音がそう聞くと彼は慌てたようにこう否定した。 「俺じゃない!! 使ったのは俺じゃなくて、従兄弟だ………」    どうやら巻物を使ったのは彼ではなく、彼の従兄弟らしい。    これはまた色々と厄介そうだと利音は感じながらも、もっと詳しく話しを聞くことにした。
/426ページ

最初のコメントを投稿しよう!

340人が本棚に入れています
本棚に追加