人と妖(下)

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 修哉はこの家に来た当初、緋葉の発する気配がどうも気になっていた。  それは妖に感じるものと似たものだったから、緋葉が人で無いと分かって驚きはしたものの、納得した。  すると緋葉は瑞稀へ視線を移す。  その視線を受けた瑞稀はひっと小さく悲鳴を上げる。 「従兄弟殿、あまりこの者を責めてやるな。 妖と言うのは非常に厄介な存在だ。 まぁ、妖である私が言えた義理ではないがな」   そう諭す緋葉だが、瑞稀はあまりにも驚き過ぎて話しを聞いていない。  そして遂には白目を剥いて気を失ってしまった。 「うわーっ兄貴!!」  倒れてしまった瑞稀を介抱する修哉は、緋葉の手を借り、ベッドへ運んだ。  そんな中管狐は、何か言いたげに修哉の周りをうろちょろする。 「どうした?」  足元に纏わり付く管狐を抱きかかえると、管狐は修哉の胸から彼の身体の中へとスッと入ってしまった。  その様子を目撃した真尋達。  利音は慌てて管狐を彼の中から追い出そうと術を使おうとしたその時。 「待って!!何も悪い事しないから待って………」  管狐は修哉の身体を借りて言葉を発してきた。  どうやら管狐は自分の言葉を伝えたくて修哉の身体を乗っ取ったようだ。 「ごめんなさい……… 話したらこの人から出て行くから」 「当たり前だ。 でなければお前を強制的に追い出して滅するだけだがな」  利音はそう忠告する。 「ボクはこの人に酷い事はしない。約束する。 だってこの人、(あるじ)様にそっくり」 「主?」  緋葉が聞くと、管狐はうんと頷いた。  話しを聞くと、その主と言うのが匂いと見た目が修哉に何となく似ているらしい。  もしかしたら修哉の親族だろうか?  しかしながら時間の感覚が人とズレている管狐は、その主が存在した時期と言うのを分かっていない為定かではない。  覚えている主の情報と言うのは「タイチロウ」と言う名前である。    そのタイチロウは憑き物である管狐をただ傍に置くだけだったと言う。  呪術は占いなどに管狐を使うことはなく、何処かの家に忍び込み様子を窺う事だったり、尾行だったり………  そして何よりも優しかったと管狐は語った。
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