339人が本棚に入れています
本棚に追加
思わず鹿北の意見に同調してしまいそうになる利音だが、警戒感を強める。
「んで、アンタはここになんの用?」
わざわざ鹿北家当主が直々に訪ねて来たのだ。
一体ここに何があると言うのだ?
「私はただ、柳井太一郎さんに巻物をお譲り頂けないかと交渉しに来ただけよ」
「タイチロウ………?」
彼女の口にした名は確か管狐が主だと言っていた名だ。
彼女が訪ねて来たと言う事は、まだタイチロウは生きていると言う事か?
すると修哉が鹿北を睨みながらこう言った。
「柳井太一郎はもう亡くなった」
「亡くなった?」
「ああ、俺のじーちゃんだよ」
そう、タイチロウとは修哉の祖父の柳井太一郎の事だった。
管狐が身体に入ってその名を口にした時は心底驚いた。
それと同時に修哉の幼い頃の記憶が蘇る。
祖父、太一郎は式神として管狐を傍に置いており、妖に関わる事を生業としていた。
しかし彼の子供は皆視えなかった。
その為太一郎の言動は子供達には気味の悪いものだった。
そして早くに妻に先立たれ、子供達も中々家にも寄り付かず、管狐だけが彼の拠り所になっていた。
そんな中でも一度だけ息子が孫を連れ帰って来た。
その孫が当時6歳の修哉だった。
視える修哉は管狐を見て可愛いと撫でていた。
だが修哉の両親は当然視えておらず、息子の言動が恐ろしかった。
それ以来、太一郎の影響で修哉がおかしくなったと、二度と会わせる事は無かった。
あの一度きりの出来事を修哉は漸く思い出したのだ。
管狐の方は修哉が幼い頃に一度しか会っていないからか、成長した彼に気付かないのか、覚えていないのか………
それでも修哉は管狐があの時の管狐だったのかと思い出した。
可愛かった。
だから両親にも見て見てと無邪気に見せていたが、何を言っているのかと青ざめていて、ああ、これも違うのかとショックで記憶に蓋をしたのだ。
やっと再会出来たが、その管狐は風前の灯火である。
おそらく利音でも管狐を助ける事は出来ないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!