〈ジイちゃんの家で②〉 無くなった写真

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

〈ジイちゃんの家で②〉 無くなった写真

「ジイちゃん、何やってんだ?」  純粋無垢な我が愛しの孫、タクヤがワシに問いかける。 「ん? アルバムを見てるだけだよ」 「アルバム?」  そうか。最近はデジカメやらスマホやらを使うんで、写真もパソコンで見るんだろう。  タクヤは珍しそうに、ワシのアルバムを眺め始めた。  ただ、さっきから気になっているのだが…… 「ん? どうしたの、ジイちゃん?」 「いやな、どうもアルバムが1冊足りないみたいなんだよ」 「どういうこと?」 「ジイちゃんが子どもの頃、友だちと旅行に行った時の写真が見つからないんだ」 「へー。どこに行ったの?」 「ブルートレイン『出雲』に乗って、『出雲市駅』まで行ったのさ。出雲大社とかを見て回って——」 「ええっ! ジイちゃん、『出雲』に乗ったことがあるの! いいなぁ…… ねえ、ジイちゃん知ってる? 今は『サンライズ出雲』って名前になったけど、今でも『出雲市駅』行きの寝台特急が走ってるんだぜ!」  そう言えば、この子は最近、鉄道に興味を持つようになってきたとバアさんが言っていたな。 「よく知ってるな。最近じゃブルートレイン…… ってもう言わないのか? 寝台車もほとんど残っていないと聞いたけど、まだ現役で走ってるのもあるんだな」  ワシも子どもの頃、大の鉄道好きだった。タクヤはきっとワシに似たんだろう。ふふ、オニ嫁のヤツ、きっと悔しがっていることだろう。おっといかん。子どもの前でゲスな笑い方をするのは(つつし)まねば。 「『出雲』の写真がなくなったのも残念なんだが、もう1枚、お気に入りの写真があったんだよ」 「わかった! 特急『やくも』の写真だ!」 「そうだな…… 『やくも』の写真も大切だけど、ジイちゃんが探してるのは看板(カンバン)の写真なんだよ」 「カンバン?」 「ああ。別に珍しい看板じゃないんだよ。どこにでもありそうな、何の変哲もな看板なんだ。でも、そこに書いてあった言葉がとても素敵だったんだよ」 「へー。で、なんて書いてあったの?」 「……それが思い出せないんだ。あの看板を見たとき、ジイちゃんはとてもジーンとして、心が暖かくなったんだ。だから写真に撮っておいたんだよ」 「ふーん、写真を失くしちゃったんだ…… あっ、そうだ! それなら本物を探しに行けばいいんだよ!」 「ん?」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!