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〈ジイちゃんの家で②〉 無くなった写真
「ジイちゃん、何やってんだ?」
純粋無垢な我が愛しの孫、タクヤがワシに問いかける。
「ん? アルバムを見てるだけだよ」
「アルバム?」
そうか。最近はデジカメやらスマホやらを使うんで、写真もパソコンで見るんだろう。
タクヤは珍しそうに、ワシのアルバムを眺め始めた。
ただ、さっきから気になっているのだが……
「ん? どうしたの、ジイちゃん?」
「いやな、どうもアルバムが1冊足りないみたいなんだよ」
「どういうこと?」
「ジイちゃんが子どもの頃、友だちと旅行に行った時の写真が見つからないんだ」
「へー。どこに行ったの?」
「ブルートレイン『出雲』に乗って、『出雲市駅』まで行ったのさ。出雲大社とかを見て回って——」
「ええっ! ジイちゃん、『出雲』に乗ったことがあるの! いいなぁ…… ねえ、ジイちゃん知ってる? 今は『サンライズ出雲』って名前になったけど、今でも『出雲市駅』行きの寝台特急が走ってるんだぜ!」
そう言えば、この子は最近、鉄道に興味を持つようになってきたとバアさんが言っていたな。
「よく知ってるな。最近じゃブルートレイン…… ってもう言わないのか? 寝台車もほとんど残っていないと聞いたけど、まだ現役で走ってるのもあるんだな」
ワシも子どもの頃、大の鉄道好きだった。タクヤはきっとワシに似たんだろう。ふふ、オニ嫁のヤツ、きっと悔しがっていることだろう。おっといかん。子どもの前でゲスな笑い方をするのは慎まねば。
「『出雲』の写真がなくなったのも残念なんだが、もう1枚、お気に入りの写真があったんだよ」
「わかった! 特急『やくも』の写真だ!」
「そうだな…… 『やくも』の写真も大切だけど、ジイちゃんが探してるのは看板の写真なんだよ」
「カンバン?」
「ああ。別に珍しい看板じゃないんだよ。どこにでもありそうな、何の変哲もな看板なんだ。でも、そこに書いてあった言葉がとても素敵だったんだよ」
「へー。で、なんて書いてあったの?」
「……それが思い出せないんだ。あの看板を見たとき、ジイちゃんはとてもジーンとして、心が暖かくなったんだ。だから写真に撮っておいたんだよ」
「ふーん、写真を失くしちゃったんだ…… あっ、そうだ! それなら本物を探しに行けばいいんだよ!」
「ん?」
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