干からびた女

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干からびた女

 ワンルームアパートに仕事を終えて、帰宅する。今日もコンビニのお弁当を買ってきてしまった。スーツを脱いで、お徳用のお茶を冷蔵庫にいれながら卵の賞味期限をチェックする。  われながら干からびてると思う。自炊しようよと心の天使が言えば、片付け出来るの? と悪魔が指摘する。  彼氏がいる頃は無理してでも、鍋やカレー・シチューなどを作っていた。頑張っていたなと思う。四歳年下の彼はいわゆる草食系男子で家事も手伝ってくれる優しくできた人だった。  元々片付け下手で、料理の手際も悪い、洗濯さえ面倒だと思ってしまう女子力がマイナス傾向の私。彼には釣り合っていなかったのだ。  別れて二ヶ月。徐々に荒れてきた生活にやばいなと思いながら、自分を変えるのは存外難しかった。 「はぁ~」  大きなため息を漏らすと、しばらく買い替えていない部屋着に袖を通す。そして、スマホのアドレス帳を確認する。たくさんの名前がある。それでも、真に心を慰めてくれる人は少ないのであった。  そんな私の趣味といえば、恋愛小説を読んだり映画を観て、泣くことだった。われながら寒いな~と思いつつ、今日は何の映画を観ようかと考えて配信サイトの番組表を斜め読みしていた。  仕事もあるし、数は少ないが友達もいる。自立して地方都市で一人暮らし。楽しいことだってある。  誰に邪魔されることもなく好きな音楽を聴いて、自分の為に使える時間だって……。  でも、ときどき間違った選択をしているんじゃないか。本当はもっと幸せになれたはず、楽な生き方があったんじゃないか? なんて狡いことを考えたりする。  こんな私じゃもらい手なんかないか……。自嘲して独り笑う。 『淑女コーディネータ (かつら)(つかさ)』  名刺をあらためて見返す。私が淑女になれたなら。今とは違うものの考え方や生き方ができるのかしら。  胡散臭い肩書ではあるけど、どうしてだろう。あの男は信用できる気がした。今時漫画みたいな出会いを、信じられるほど純粋ではなかったが、他人を見る目はそれなりにあると思っていた。  私、矢野(やの)真由美(まゆみ)は不器用だが一生懸命生きてきたのだ。                                                                 
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