述懐

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述懐

その夜、葬儀の日程が決まり、束の間の晩酌をしていた。 視線の先には、畳の部屋に眠る父の棺があった。 手にしていたのは、押し入れから取り出してきた数冊の古アルバム、遺影に使用する写真を決める為だ――改めて見てみた。 幼い頃父に抱かれた私の一枚。 写真の父は今の私よりも若い。精悍で希望に満ちた顔をしている。私が誕生した時、男子と聞いて父は、それは、喜んだという。 最初に買った家の一枚。 その家にはブロック塀があった。私はこのブロック塀でよく壁当てをした。父は、たまに早く帰ると、これを背にキャッチボールをしてくれた。 よく連れていったもらった河原で遊ぶ私の一枚。 最初の家からは山が見え、その麓には川が流れていた。釣り、虫取り、バーベキュー。私が喜ぶと父は決まって私の頭を撫でた。 幼い頃の私は、父のその背中を追っていたように思う。 中学、高校の頃の頃。 私も難しい年齢となり、父を疎ましく思った時代となる。故にこの間の父との写真はほとんど残っていない。 大学の頃、出先での一枚。 バイトをして貯めたお金でマイカーを買った。その車で山梨の桃源郷に行った時の一枚。 この頃は、私も酒をおぼえ、時折、一緒に呑みにいって、腹を割って話をしたりもした。 私の結婚式の集合写真。 式の直前まで、いつもの酒癖が出て、私はイライラしたものだった。ようやく立ち直り、なんとか式にこぎつけたのだった。 式の前日、ホテルの部屋で一杯やったのは今思えば、いい想い出だ。 やがて、家を離れ、私自身が親となった。 ようやく親の有り難みが少しは分かりかけた時、その感謝を伝える前に、父は逝ってしまった――世の無常を感じた。 視線の先で眠る父を愛おしく感じた。 我慢しきれず、嗚咽した――。 「んんん・・・お父さん・・ありがとう・・ごめんなさい・・」 畳の部屋の父に、そっと囁き、涙酒を呑んだ。次第に睡魔が襲い、吸い込まれるように夢の中へ引き込まれていった――。
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