0人が本棚に入れています
本棚に追加
夢中
少年の私は、父と並んで川に膝まで浸かり、短い木製の竿を水中に沈め前後させていた――“あんま釣り”という名の釣りだ。
竿に糸を垂らし、石の裏に張り付いた川虫類を先端の針に刺して餌にする――至極単純な釣法だ。
時折、ビビィツという振動が手に伝わり、竿が振動する、喜び勇んで竿を引き上げてみると、糸の先でハヤが身体をバタつかせていた。
ハヤは光を浴びてキラキラと光っていた。
それを針から外し、水中に沈ませてある魚籃(びぐ)に入れ、再び石を翻し、川虫を探る――その繰り返しだ。
川の流れる音だけが耳にはしり、時折、鳥の声が囀った。
やがて、釣りに飽きると、今度は、雑草の茂る、粗末なグラウンドで、キャッチボールを始めた。
しばらくすると、父は腰を降ろした。
“振りかぶって投げてこい”――その合図だ。
私は喜び勇んで、父のグラブを目がゴム製のC級ボールを投げ込んだ。
何球目かのボールが父の頭上を越え、草むらへ消えた。それを探し草むらに分け入った。
すぐに見つかると思ったそのボールは、なかなか見つからないのであった。
ついに諦めて、しょんぼりと父の元へ向かった。
しかし、どこを探しても父の姿はなかった。
”えっ、お父さん、どこへ行ったの?!・・”
夢の中で、私の意識は混濁した。更に、夢の靄をかき分けると、そこには
一人、3歳くらいの少女が背を向けて立っていた。
――ハッと目を覚ました。
どうやら、眠っていたようだ。
時刻は午前3時を指していた。
最初のコメントを投稿しよう!