夢中

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夢中

少年の私は、父と並んで川に膝まで浸かり、短い木製の竿を水中に沈め前後させていた――“あんま釣り”という名の釣りだ。 竿に糸を垂らし、石の裏に張り付いた川虫類を先端の針に刺して餌にする――至極単純な釣法だ。 時折、ビビィツという振動が手に伝わり、竿が振動する、喜び勇んで竿を引き上げてみると、糸の先でハヤが身体をバタつかせていた。 ハヤは光を浴びてキラキラと光っていた。 それを針から外し、水中に沈ませてある魚籃(びぐ)に入れ、再び石を翻し、川虫を探る――その繰り返しだ。 川の流れる音だけが耳にはしり、時折、鳥の声が囀った。 やがて、釣りに飽きると、今度は、雑草の茂る、粗末なグラウンドで、キャッチボールを始めた。 しばらくすると、父は腰を降ろした。 “振りかぶって投げてこい”――その合図だ。 私は喜び勇んで、父のグラブを目がゴム製のC級ボールを投げ込んだ。 何球目かのボールが父の頭上を越え、草むらへ消えた。それを探し草むらに分け入った。 すぐに見つかると思ったそのボールは、なかなか見つからないのであった。 ついに諦めて、しょんぼりと父の元へ向かった。 しかし、どこを探しても父の姿はなかった。 ”えっ、お父さん、どこへ行ったの?!・・” 夢の中で、私の意識は混濁した。更に、夢の靄をかき分けると、そこには 一人、3歳くらいの少女が背を向けて立っていた。 ――ハッと目を覚ました。 どうやら、眠っていたようだ。 時刻は午前3時を指していた。
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