電光掲示板

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ビカビカとよく目立つ配色とは裏腹に、躊躇ひがちな文字の羅列が電光揭示板の上をゆつくりと流れてゐく。 ホームで人死にがあつたやうだ。飛び降りかな、いひひひひひひ。私は人の流れに逆らつて步く。 チィと舌打ちしたのは喪服の女。如何したと云ふのだらう?彼女は屹度此れから悼みに向かふのだ。 泥のやうな言葉を驛員へ吐き散らす中年。殘り何十年しかない僅かな時閒を奪はれた事がよほど腹に据えかねるやうだ。 スマアトホンに向けガリガリと忙しなく指を動かす若者を尻目に、私はホオムへと降りてゐく。 電話で何かを交涉する男とすれ違ふ。目的地へは代はりを寄こすのだらう。善かつた、別に彼でなくとも濟む用事だ。 繰り返されるアナウンスの合閒を縫つて、ケショケショとシヤツタア音が鳴り響く。やあ、彼方かな、急がう急がう。飛び降りだと善ひな、いひひひひひひ。 私は此れから、國民統計に一つマヒナスがつくだけの、ほんのつまらなひ結末を眺めにいくのだ。 ヤツタア、今年は減つたぞ。善かつたねえ、何でも昨年は大變に多かつたさふだから。 お天氣の所爲かしらん。不況だつたしねえ。 まるで病氣の豚でも處分してゐるやうぢやないか、いひひひひひひ。 飛び降りだつたら話しかけてみよう、氣が合ふかもしれなひ。
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