2話

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2話

小・中・高校生のころの澪は、誰がどう見ても太っていると言う程丸い体型をしていた。鼻も低く、眉毛も太い。運動が苦手で、学校に行く以外は外に出ることも無く、肌は真っ白だった。口の悪い男子に"白ブタ"と言われたこともあった程。しかも澪は人よりも気が強く、よく腹を立てると相手が誰であろうが手を上げるような性格であったため、いつの間にか"暴力デブ"と陰で言われるようになっていた。よくテレビで、太っている子でも面白い性格であれば周囲からいじられキャラとして好かれる、というのを目にするが、澪はそういう雰囲気が嫌いなため、人との付き合いを避けてきたのだ。 そうして大学生になる前、合格発表を受け、すぐに地元を離れて都会に出ていった澪は、周りの綺麗な女の人達を見、自分もそうなりたいと思うようになった。その時、テレビで報道されていたある実話を目にし、彼女は変わる決意を決めた。 その内容は、散々いじめられていた子が大人になって大変身し、復讐を遂げることだった。人は変われるものなのだと感じたと同時に、復讐された相手の顔が澪の中に、とても印象深く残った。 (変わりたい…。変わって散々私をこけにしたヤツらを見返してやりたい。) そう決心した澪はまず、大学入学前に『すれ違う人が振り返るほどの美人』という高い目標を決め、計画を立てることにした。合格発表から大学入学までの期間は約2ヶ月半。ここが勝負どころだと、すぐに過酷なダイエットを始めた。サプリメントや運動はもちろん、昼以外の食事を抜き、昼はサラダしか食べないという生活を送った。不健康でも、まずは体重を落とすことが優先だと考え、いくら苦しくても、今までの奴らに復讐するんだという気持ちが支えとなり、やめることはなかった。しかしここまですると、ビタミンや他の酵素が不足して、肌や髪に影響が出てしまう。そのため、改善策としてビタミンCやBなどを集中的に補うサプリメントを毎日欠かさず摂取し続けた。 そうしてみるみる体重が落ちていき、入学式の日には元の体重の-30kgにまで落とすことが出来た。運動中に聞いていたメイクの仕方や髪型、垢抜けた人がしていた事など、残り一日はずっと鏡の前で奮闘していた。 このようにしてようやく理想の体を手に入れた澪は、自分の姿が相手から見てどう見えているのかドキドキしながら入学式を迎えた。 まだ十分に痩せてないのではないか。メイクは間違っていないだろうか。という心配を他所に、周囲の目は驚いたように、また羨ましそうに澪に向いていた。 最初は慣れなかったその視線が、いつの間にか自信となり、当たり前になって、今の澪になったのだ。 そう昔のことを思い出し、意識が向こうに飛んでいた時、つけっぱなしのテレビから聞こえた女の甲高い笑い声に、ビクッと肩を震わせ、一気に現実に引き戻された。ドクドクと高鳴る心臓を抑え、洗面台で軽く顔を洗い流す。目の前にある鏡に手を添え、向こうにいる自分の顔を撫でるように手を滑らす。 (…大丈夫。私はここまで綺麗になった。もう絶対、バカにされてたまるもんですか。) 次の日。 「ねぇ澪ちゃん、おーねーがーいー!」 「んー…やっぱり無理かな。それより人の写真勝手に使っちゃダメでしょう?」 「だって合コンだよ?合、コ、ン!写真で男釣らなきゃ、イケメンな人なんて来ないんだもん。」 教室移動の際、彩葉から声をかけられた澪は何だろうと首を傾げながら彼女を待った。歩きながら他愛のないことを話していた途中、急に合コンに誘われ、合コンのメンバーを集めるのに自分の写真が使われていたということを知ったのだ。 (いや合コン行く行かない以前に、人の写真勝手に使うなんて、プライバシーの侵害になってること気づいていないの?それに私別に男に困ってないし、興味無い。) 「澪が来てくれないと、私には出会いがなくなて一生孤独で過ごすんだよー!お願いっ!この通り!」 両手を合わせ、頭より高く掲げてそう願う彩葉。廊下のど真ん中で、必死にお願いと連呼する彼女に、同じクラスの人だけでなく他クラスの生徒の視線も集まった。しかし彩葉はそんなの気にすることなく、頭を下げ続ける。 (この子の事はどうでもいいけど、皆の前で下手に断ったら、今まで築き上げてきた優等生キャラが水の泡になってしまう…。) 澪は全くしょうがないな、とため息交じりの声を出した。 「…分かった。今回だけだからね。」 「よっしゃ。ありがと、澪ちゃんっ!」 「でも、タダじゃないからね。今度私とショッピング!約束ね。」 「うん!行くいく!澪ちゃん、優しー。」 ニコッと笑う彩葉に合わせて、澪も同じく笑顔を作って向ける。 ほんわかとした空気を生み出している中、周囲の人たちは、 「あぁ、杠葉さんやっぱ優しいんだ。」 「それなー。…てかいつも一緒にいる雛鶴彩葉。アイツは何を願って、OKが出たんだ?」 「知らね。てかどーでもよくね?…あんなに楽しそうに笑ってるなら。」 「「確かに。」」 二人のほんわか空気に感化され、周囲もほんわか雰囲気に包まれている中、当の本人はというと… (ふっざけんな!なんで私がそんなとこ行かなきゃいけないのよ!あと半年頑張らなきゃいけないのに…。それより、合コンで野菜以外のカロリー摂取するから、そのためにもっと食事を見直さなきゃ。あぁ、もう!なんでこんなに忙しいのよ!)
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