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4話
「初めまして〜。皆さんから見て左から、香澄、朱里、私彩葉、澪ちゃんって言います。今日はよろしくお願いしまぁす。」
ぶりぶりに話す彩葉に、顔色1つ変わらない女子達、いつもならギャーギャーキモイキモイと騒いでいるのに対し、今は誰1人口にすることがない。
(合コンって言わば、性格詐欺とも取れるわよね…まぁ私が言えた口じゃないんだけど。)
彩葉と一緒にいる澪は、彼女と仲の良い女子達の性格をよく知っていた。直接関わることはなくても、彩葉と絡んでいる所を見て、少しうるさい単純いい子ちゃんだと感じている。
「紹介ありがとうございます。では僕らも皆さんから見て右から、悠誠、星辰、僕陽翔、正司と言います。こちらこそよろしくお願いします。」
開始早々爽やかスマイルを向ける陽翔は、早速澪以外の女子達のハートを撃ち抜いた。
(最初はこんなもんだろ。杠葉澪は…って、見てねぇ!?)
全員の反応を見、1番の狙いの彼女に顔を向けると、彼女は下に顔を俯かせ、何かをじっと見ていた。
陽翔が困惑している中、澪が何を見ていたかと言うと、膝の上に置いたスマホを見ていた。合コンのために、無料トークアプリLIMEで女子グループを作り、合コン中にトイレに行くことなく会話ができるようにしていたのだ。ポコンポコンと休む暇なく、新着メッセージが届く。
『やべぇ』『イケメン』『カッコよ!』『私あの人狙う』『え、ムリ』『私も!』
一言二言の短文が次々と送られる。澪はチラリと女子の方を見るが、全員陽翔に釘付けで、机の下で指を動かしていた。たまに視線を下に向け、0.1秒ほどで前に向き直る。
(…都会の女子ってすごい。)
いつも授業で寝かけている人達でも、本気を出したら本当はすごい人であるのだ、ということを学ぶ。
「あのー、陽翔さんはどんな子がタイプなんですかぁ?」
「んー、優しくて家庭的な子かな。…あ、そういえば澪さんって、一人暮らしって言ってましたよね。料理したりするんですか?」
「えぇ、少し。」
「へぇ、食べてみたいなぁ。」
「ふふ、そうですか。」
そう言う陽翔の誘いを笑顔で流す澪。数十分そんな感じで誘いに乗ってこない彼女に、流石の陽翔も我慢の限界が来ていた。
(何で乗ってこないんだよ!周りのやつは…。)
「実は私、料理得意なんです〜。」
「私も私も〜!」
「…そうなんだ。」
自由席になり、陽翔の隣には香澄と朱里が座っており、2人とももう陽翔にメロメロであった。
(ほら、これが普通だろ。俺がこんなに誘ってんのになびかないなんて…しかも2人も!)
陽翔は彩葉の方へと視線を変える。すると彼女は正司と仲良く話をしているところだった。
「え〜正司君、こういう所慣れてないの?かわいー。」
「え、や、慣れるとかじゃなくて、彼女とかも、いたことねぇし…。」
「え〜何それ、面白ーい。」
(…何が面白いのか意味わかんね。しかもアイツガチガチじゃんかよ。)
今まで"彼女"の単語が出てこなかった正司の人生。彼は、もしかしたら今回初めて出来るかもしれないという気持ちに、緊張しまくっていた。
(確かにそこら辺の男より顔面偏差値高い奴らだけど…普通は俺に来るだろ!)
そう1人で悶々としている陽翔だが、彩葉が陽翔に近づかないのには理由があった。
(やっぱり皆彼に行くと思った。皆平均より良い男なんだから、欲張らずに2番目3番目を狙えばいいのに。)
彼女は確実に彼氏をつくるため、みんなが集まるであろう陽翔からわざと離れたのだ。
皆それぞれが自分の出会いのため頭を働かせている中、意外にも澪はこの場を楽しんでいた。自由席になった途端、彼女に興味本位で近づいてきた星辰。澪は何気なく飲み食いしている彼に視線を向けると、あることに気づいてしまった。
「あれ、星辰さん…肌お綺麗ですね。」
その言葉にピクッと肩を動かす星辰。
「俺の、肌って言った…?」
「う、うん。肌綺麗だから何かしてるのかなって気になってしまって…。」
そう言うと、星辰は次の瞬間ぱぁ…!と顔を明るくさせ話し出した。
「よく聞いてくれた!俺、肌にはこだわってて、1日2回種類の違う化粧水を使ってるの。澪ちゃんさ、写真みても思ったんだけど、ダイエットとか断食とか何かしてるの?」
「え…?」
いきなり図星をつかれた澪は、嘘や誤魔化しをするということを忘れ、固まってしまった。それを見た星辰は何でもないように軽く笑う。
「そういうのは個人の自由だから俺は何も言わないよ。でも栄養失調で肌荒れしてるのをメイクで隠そうとしてるでしょ。」
(うっ…バレてる。)
自分の顔を触り、どうして分かったのかと疑問に思う。
(今まで色んな人に完璧と言われて、気づかれていないと思っていたのに。)
とそこで澪は、自分が今一切本性を隠していないことに気がついた。言葉に出さずとも、その人が醸し出す雰囲気や仕草、表情に全て表されてしまう。澪は慌てていつもの自分を取り戻し、彼と接する。
「周りの子、皆綺麗だから私も努力しなきゃって思ったの。でも、やっぱりすぐには綺麗になれないよね…。」
少し儚さを出すために、顔を提げながら力ない笑顔を浮かべる。
(危なっ!本当に危なかった。急に図星つかれたらビックリするじゃない。)
儚い笑顔の裏側で、そう息をつく彼女に彼はまんまと騙され、真剣な表情で言った。
「そんな事ない!君は綺麗だよ!」
「本当…?」
(そりゃそうでしょ。努力したもの。そこでもし肯定でもされてたら、路地裏で殴ろうかと思ったわ。)
割と本気でそんな事を考えていたとはいざ知らず、彼は真面目に話を続ける。
「ただ、少し肌荒れをしてるから…。」
そう言ってスマホのロックを開ける星辰に、それをじっと見つめる澪。
(『417056』ね…。こんな簡単に人前でスマホロック数字を入れるなんて、危機感のない人ね。)
いくつか画面をスクロールし、写真フォルダーから何かを選び、アップしてスマホ画面を澪へと突き出す。
「これ、俺のオススメ。きっとすぐ肌荒れも治るよ。今でも十分綺麗だけど、やっぱり"美"を磨くって楽しいからやめられないよね。」
ニコッと笑う彼に、澪はこの時大きな心の壁わ感じた。
("昔の奴らに復讐"ただそれだけの為に頑張ってきたから、楽しいなんて感じたことない…。)
普通の標準体型の人からして、美容は楽しいものなのかもしれないが、澪にとっては復讐するための一手であり道具に過ぎなかった。
(やめたいと言ってやめれるなら、今すぐにでもやめてるわよ。それでも…。)
とその時、逆側から肩をつつかれ振り返ってみると、澪の隣には悠誠さんが。
(この人…さっきから無口でどういう人なのか分からないから、正直苦手…。)
話をしに来たのかと思い、彼を見る澪だが、悠誠は横に座るとそのままゲームを開き、プレイしだした。
(…ん!?え、話しに来たんじゃないの?隣に座りたいがために来ただけなの?え!?意味わかんない。)
頭の中でたくさんの疑問が渦巻いている中、そのゲームが視界の端にチラッと入った。
「ん?このゲームって最近流行りの…?」
そう何気なく呟くと、悠誠はスっと顔を上げすぐに口を開いた。
「『マインクラスト』…知ってるの?」
(この人…合コン来た第一声がそれでいいんだろうか。)
「うん。詳しくは知らないけど、人気なんだよね?」
澪がそう言うと、悠誠は目をキラキラさせて、コクコクと激しく頷いた。
「人気ってだけじゃない。色んなシリーズが出てるし、日本だけじゃなく世界中にプレイヤーがいて…」
聞くんじゃなかったと後悔してももう遅い。何かのスイッチが入ってしまった悠誠は、黄昏(たそがれ)ている澪にお構い無しでペラペラと流暢に話し続ける。
(最、悪…。変なスイッチ押しちゃった。)
右からは美容、左からはゲームと、興味は少しあるもののマニアックな話を永遠と聞かされる澪。この時彼女は、もう二度と合コンなんか来るもんかと固く誓った。
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