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5話
「これ、俺のLIME。また美容について知りたいから、連絡して?」
「...!僕も交換する。ゲームする時、連絡するね。」
「あ...うん。ありがとう。」
(もう二度と話したくないんですけど。)
そう思いつつ優しい笑顔を向ける澪に、ある会話が聞こえてきた。
「正司君〜カラオケ行こっ。2人で二次会!...ダメ?」
「い、いやダメじゃないけどよ...他のやつも二次会行きたがってるかもだろ?」
「えぇ...私、2人っきりでいたいのに。皆もそれぞれ二次会行きたいよね?」
そう計画性のある質問に、陽翔にくっついている2人は深く激しく頷いた。
「だよね〜。...あれ、澪ちゃんは?」
「私はもう疲れちゃったから、帰ろうかな。」
(これ以上一緒にいるなんて無理よ!それに早く帰って、お風呂入って、パックして寝ないと、また肌が荒れちゃうじゃない!)
「そっか、気をつけてね〜」
「うん。皆は楽しんで行ってきてね。」
「もちろん!...てことで、行こっ!正司君。」
「お、おう...。」
彩葉は強引に正司の腕を引っ張って連れていく。その後ろ姿を見ながら、彩葉は肉食女子だったと脳内にメモをする澪。
その後ろでは、うざったいくらい甘い声を出す女二人が。
「んねぇ?私達も早く行きましょ?」
「もっとお話したいよ〜。」
「え、えーっと...。」
そんな2人に対し、陽翔は心底反吐が出る思いでいた。
(お前らのせいで俺の計画パァになってたまるかよ。)
「ごめんね?僕もそろそろ帰らないと...」
そうやんわりと断ろうとする陽翔だが、ギラギラと獲物を見るような目を持つ2人から逃げられる訳がない。
「なーんで、もう帰るの?」
「一人暮らしって言ってたじゃん!親の門限とか無いんでしょ?もうちょっと遊んでこうよー。」
「い、いや〜でもそろそろ帰らないと、君たちだって夜遅くなったら危ないし...。」
「じゃあ家まで送ってよ。」
「送り狼になってもいいからぁ。」
話があらぬ方向にいってしまう中、これ以上ここにいてはマズイと思った澪は、まるで今までの話を聞いていなかった様に笑った。
「では私は失礼させて頂きますね。今日はありがとうございました。それでは。」
「あ、ちょ...!」
一方的にそう述べ、クルッと背中を向け帰っていく澪に、焦った陽翔は声をかけようとしたが、すぐさま両隣にいる2人に阻まれた。
「早く行こ〜。」
「私達の家こっちだからさぁ。」
(あぁ、くっそ!マジで邪魔だなコイツら。どうすりゃ...あ、そうだ。)
* * * * * * * * * *
明るいネオンが星よりも輝いている街。明るすぎて、夜中であることを忘れそうになる。
「はぁ...本当に疲れた。」
星の見えない空を見つめ、ポロッと本音が零れる澪。田舎ではあんなにも近くにあった星空が、今じゃ遠すぎて見えない。
(遠くに来たな...私も。)
澪にだって純粋無垢な時代はあった。復讐なんて考えない、その内罰が下されるはずだと信じて待ち続けていた時代が。
人を馬鹿にするくせに、自分が危なくなったら人を持ち上げる人。全員いつか後悔する日がくるだろうと、信じて疑わなかった。...でも、
(神様は不平等だった。)
『全く...あなたは本当に調子がいいんだから。今回だけよ?』
そう笑って悪事を放置する大人たち。彼らが見ているのは、その子がどんなに可愛いか、その子が自分にどんな良い影響を与えるのか、自分の名声にどう関わってくるのか、だけだった。
成長するにつれ、なぜ自分達が教師に許されるのか理解した彼らは、その顔やずる賢さを武器に、下の者たちをいじめ出す。そして大人の目を掻い潜り(かいくぐり)、好き勝手楽しんで生きていくのだ。
それが教師から上司、社長になっても、彼らのやり方は変わらない。運の良い奴らは、良い思いだけして人生を終わるのだろう。
(本当、腐った世の中よ。...だからこそ、私は復讐を果たす。アイツらに良い人生だけを与えるなんて、そんなこと私は許さない。...1度だけでいい。1度だけでいいから、痛手を食らわせたい。)
ただ見返したいだけじゃない澪の決意。絶対に揺るがないであろうその復讐心が、今の彼女の生きる糧でもあった。辛い勉強の日々を乗り越え、良い大学に入り、やっと今この場所にいる。
そりゃ澪だって人間だ。出来ることなら楽に生きたいと思っている。...それでも1度自分で踏み出した道。険しかろうが苦しかろうが、逃げたりはしたくなかった。
(今まで何度も辛い壁を乗り越えてきたわ...。だからこそ、)
「澪さーん!」
そう呼ばれ振り返ってみると、後ろから名前を呼びながら走ってくる陽翔の姿が。
(東雲陽翔...多数の女子と付き合っては別れを繰り返している女たらし。異性はもちろん同性からの嫉妬も後を絶たなかった。だから友人は今日参加した3人しかいないと噂がある人。)
用心深い澪は、合コンに参加する前の日に、参加する全員の情報を集めていた。噂から事実まで、全てをかき集めた。だからこそ、澪は陽翔に最初から興味が持てなかったのだ。異性からはイケメンだということを、同性からはほぼ悪い評判しか聞かなかったこの男。
そう考えながら、澪は陽翔が走ってくるのを、キョトンと首を傾げて待つ。
(顔のいい事を利用して、女たらしのこの人が私は...)
それに対し、陽翔はタッタッタッと近づいていく。
(人望の厚い、性格も顔もいいこいつが俺は...)
そして2人は互いに向き合い、手の届く近さまで近づいた。
(大っ嫌いよ。)
(絶対に欲しい。)
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