雷鳴

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 駅から徒歩5分以内、立地もいいし建物も新しくて広い。  学生用というよりファミリー向けの間取りだ。  けど、その割に家具も少なくきちんと整頓されていて、むしろ無機質な印象すら受ける。  自分なら、こんなところに住んだら置き場所があるのをいいことに散らかし放題にしそうだけど……。  脱いだコートを手に突っ立ったまま、ついきょろきょろと見回していると 「親が用意したんです。――――どうぞ」 台所でお茶を淹れてくれていた彼が、紅茶をテーブルに置いた。 「ミルクと砂糖は要りますか」 「あ。ううん。大丈夫。ありがとう」 「あと、それ掛けておきますよ。濡れてるでしょう」 「あ……ありがと」  確か誕生日は12月と聞いたけど、なんて良く出来た19歳だろうと感心する。  彼は私のと自分のコートをハンガーに掛けながら、他人事のように言う。 「学生の一人暮らしには贅沢ですけど、僕の持ち物が全部入るように父が用意してくれたんです。おかげで安心して生活できます」  一瞬意味が分からずにいると 「実家に置いてくると何をされるか分からないので」 と彼は補足する。 「……そうなんだ」  今までに聞いた断片的な情報から、いろいろ事情があるらしいのは知ってるけど……。
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