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「捨てられて困るものがそんなにあるわけじゃないですけど、本は大事なので。本棚の他に段ボールに詰めたままので一部屋使ってるんです。後で見ますか?」
「え?……あ、うん。蓮見君が良ければ」
彼の表情が少し和らいで、こちらはどきっとする。
そんなに大事なものを、そんな無邪気な表情で『見ますか』と言ってくれるくらい、信用してくれてるんだろうか。
「すみません。僕ばかり喋って。お茶が冷めますから、座ってください」
「……うん。ありがとう」
テーブルを挟んで向かい合わせに座って
「頂きます」
金の縁取りの洒落たティーカップを手に取った時、大きな雷の音が響いて、その姿勢のまま私は硬直した。
外は相変わらずの雷雨で、激しく雨粒が窓を叩く音がしている。
「……先輩。遮光カーテンも閉めますか?少しは音が違うかも」
「あ……大丈夫。ありがとう」
立ち上がりかけた彼を止めて、私は紅茶を口に運んだ。
お茶。いい香りがする。なんだっけ、これ――――。
「アールグレイ、お嫌いでしたか」
「あ、それ」
「え?」
「ああ、ううん。何て名前だったっけ……って思っただけで、別に嫌いじゃない」
「それなら、良かったです」
彼は顔をほころばせた。
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