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私の言葉を聞くと、彼は少し考えて言った。
「確かに……弟も、周りに言われるまま僕を嫌ってもおかしくない状況でしたから、彼自身の個性で、そんな周囲を疎ましく思って、かえって僕に懐いてくれたのは運が良かったんでしょうね」
寂しげな笑みを見て、ふと思った。
彼は父親似なのか母親似なのか、そんなことは聞けないけれど、でも兄弟ならその弟さんもきっと、この人に近い涼しくて綺麗な顔立ちをしているんじゃないかと。
それから、彼の蔵書を見せてもらったり好きな本の話をしているうちに、気づけば1時間経っていて、雨はまだ降っていたけれど雷はだいぶ遠くなっていた。
「――――お茶、淹れましょうか。違うのにしますか?」
テーブルに向き合っていた彼が立ち上がると
「あ、ううん。いいよ。もう」
私は彼を止めて言った。
「雨も、もうそんなにひどくなさそうだし、そろそろ失礼するから」
「……そうですか。……けど、傘、無いんですよね?」
「あ」
忘れてた。
ぷ、と彼は吹き出す。
「まあ、いいですけど。元から貸すつもりでしたから」
「いや、別に当てにしたわけじゃ……」
「知ってます。というかお茶とお菓子は遠慮なく飲み食いして傘は遠慮されてもって感じですから」
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