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後から考えれば、それは文字通りの意味じゃなかったはずなのだけど、私はそれまでも恋愛には無縁で、そういう機微に聡い方ではなかった。
もっとも、分かったところで返事は変わらなかったろうけれど。
「ありがとう。でも、もうだいぶ遠いし。これなら平気だから」
彼の返事はなかったけれど行こうとすると、肩に後ろから手が置かれて、振り返ろうとするとそのまま彼の胸に抱きしめられた。
一瞬何が起こったか分からず、遠くで微かに鳴る雷の音だけが耳に届く。
もう、去り際の雷様の背中程度の、今にも雨に紛れて消えてしまいそうなくらいの。
抱きしめられた腕の力は強く、抜け出せそうになくて。
細く見えてたけど、やっぱり男の子なんだよな……なんて今さらなことを考えていると
「――――ないで」
掠れた彼の声が、聞こえた。
「……行かないで。……ここに居て」
抱きしめられた胸から直接響くような言葉は、なんだか痛々しかった。
行かないで。と、また声が伝わって、大きな子供をあやすように私は彼の背中に手を回した。
「……分かった。まだ行かないから」
とんとん、と叩くと、彼がまたぎゅっと抱きしめた。
「ここに居て。もう少しでいいから」
「居るよ」
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