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「誕生日でしょ。要らないものあげたって困るだろうから、これしか用意しなかったから」
と、彼女は僕を見上げて微笑む。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。……えっと、これがさっき言ったタルト。こっちはチョコレートケーキだけど甘さは控えめで男の人にも人気。これは、せっかくだからブッシュドノエル風のロールケーキ。こっちも大人が食べても飽きが来ないようにスポンジが少しほろ苦くてそれほど甘さはきつくないと思う。……なに?」
「いや、店員さんみたいで」
「だって店員だもの」
彼女は笑うけれど、……こんな風に接客しているんだろうなと思うと、軽い嫉妬を覚える。
誰に対してかは分からないけれど。
「ショートケーキも生クリームが美味しくて人気なんだけど、蓮見君はあんまりクリーム好きじゃなさそうな気がしたからやめておいた」
「……ありがとうございます」
「やっぱ苦手?」
「いや、平気な時もありますけど、それによっては駄目な時もあるので」
「良かった。じゃ、とりあえずどれかは食べられそう?」
笑顔を向けられると、その幸せな気持ちの対極にあるものが刺激されたように記憶がよぎる。
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