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「……すいません」
「ううん。それはいいんだけど。……で、今日ケーキ買いに行ったもんだから、誰と食べるんだ、って。家族の数には足りないし。だから、友達と会う予定あるんでって話したじゃないですか、って言ったら、男か女かって聞くから。いや男の子だけどって言ったら裏切者呼ばわりされた」
……女性の職場って壮絶だな……。
「話は逸れたけど、……あたしも、楽しみじゃなかったって言ったら嘘だし、あたしが何かあげるばっかりってことは、ないよ。今までも、……蓮見君と話したり、紫陽花見に行ったり、楽しかったし」
だんだん声が小さくなって、俯き加減に恥ずかしそうに唇が動くのを見たら、勝手に手が動いた。
ぎゅ、と抱きしめると腕の中で彼女が言った。
「……いいよ、ってまだ言ってないんだけど?」
怒っている声では、なかった。
「すいません」
口で言うのとは裏腹に、そうしたい衝動は胸からとめどなく溢れてきて、力任せに抱きしめた。
背中に回した手の指先が触れた髪すら愛おしくて、手を差し入れてそっと梳いた。
「……好きです」
「うん」
「……それだけ?」
自分でもどうかと思うくらい甘えた声が出て、彼女も笑った。
「……じゃあ、なんて言えばいい?」
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