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 書斎でパソコンに向かっても、昨夜同様、書いては消し、書いては消してを繰り返すだけで全く進まない原稿を見ていると、継母の言葉は間違っていなかったと思う。  半分しか血の繋がっていない弟は、父の会社に入って後継者として学んでおり、内面はともかく表面上は如才なく誰とでもうまくやれるし、多分商売のセンスもある。  自分は学校の成績は良くても、友達ひとり家に連れてきたこともなく、食事は実母の居た頃からの家政婦の作ったものしか受け付けず 「頭はいいかも知れないけど、生きていくには使い物にならない子だと思うわ」 と父に話していたのが聞こえたことがある。  その継母も既に病で亡くなり 「あの人が兄貴にきつく当たってたのは、母親似だっていう兄貴の顔が気に入らなかったっつーか、妬ましかっただけと思うぜ。あの人に言われたことは気にしない方がいい」 優しい弟はそう言ってくれたけれど、おそらくそれは、僕を疎んだ要因のひとつに過ぎない。  実際今も、大切な人ひとり幸せにすることも出来ず、傷つけてばかりなのだから。  これ以上仕事が進む気配もなく、諦めて早めに床に就こうと寝室に行くと、彼女がスマホを手にベッドに入っていた。  それも、どこかの男に心の狭い旦那の愚痴を送っていたのではなどと考えたらきりがない。
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