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僕が来たのを見ると妻は枕元にそれを置き、窓際を向いて布団を被る。
「……おやすみ」
声を掛けると、おやすみと一応返ってきた。
電気を消して横になり天井を見上げると、だからお前なんて居ない方が良かったのだと継母の声に重なって自分の声がした。
何の役にも立たない。
ただ周りを困らせるだけ。傷つけるだけ。
彼女だって、僕と過ごした年月を他の男と過ごせばもっと違った人生になっていたかもしれない。
僕が父親でなければ、子供だって無事に授かったかもしれない。
あんなに彼女が苦しむこともなかったかもしれない。
だいたい、初めから分かっていたのじゃないか。僕がこの人を不幸にすることは。
「────ッ」
壁の方へ寝返りを打つと
「……大丈夫?」
彼女が言った。
「何が」
「……知らないけど、なにか苦しそうだったから」
「別に何も」
「……なら、いいけど」
その声は悲しそうだった。
まだわだかまりのあるところを気にしてくれたのだろうに、きっと言わなければ良かったと思っているだろう。
胃が痛くなってきて、体を丸めた。
もう師走も近い夜、入ったばかりの布団の中は冷たい。
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