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以前は、冷え性の彼女が『寒くて寝つけない』と僕のベッドに入って来て、そのまま肌を重ねたこともあったけれど、今はそんなこともなくなった。
それなら、こちらから誘えばいいのに、それもいつからか怖くなった。
断られることも、断られなかったとしても本当はこんな夫に触れられるのも嫌なのに我慢しているんじゃないかと考えることも。
ただでさえ偏屈で話の通じない旦那に一年も放っておかれたら、浮気もしたくなるだろう。
彼女は大学時代と変わらず、誰とでも明るく接することが出来るし、後輩からも同期からも頼られる人だ。
既婚で四十は過ぎたとしても、若い頃に比べてそう体の線が変わっているわけでもなく――――。
ふと、不安が頭をもたげた。
それは心に落ちた一滴の墨のように胸を真っ黒に染めて、僕を支配しようとする。
「……史香」
「なに?」
眠そうな声ではなかった。
にしても疲れているのは間違いないのだから……いや、その出張すら他の男に逢うための嘘だとしたら。
「……どうかした?」
ベッドの上に体を起こして、僕は言った。
「確かめたいことがあるんだが」
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