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 両の腿からふくらはぎまで目を落とすと、その爪先にくちづけたい衝動に駆られたけれど、堪えた。 「……反対向こうか」  彼女はそう言って自らうつ伏せになり、背中にかかった髪を取りのける。  後れ毛を残してあらわになったうなじを見ると唇を押し付けたくなる。  思わず吐息を漏らした自分のあさましさに苛立って、ぐっと二の腕を掴んで脇を開かせると彼女が振り返った。 「……痛かったかい?」 「……そうじゃないけど」 「痛いほど力は入れてないよ」 「……うん」  彼女は枕に顔を伏せた。  白い、滑らかな肌。  僕が識る唯一の女性の体。  社会人になってからは、自分を偽ればそこそこ常識的な態度を取ることは出来るようになっていたから、上っ面だけなら他の相手と親密になるのも難しくはなかったはずだ。  彼女からも、はっきりと別れを告げられたことは無くても、愛想を尽かされてしばらく冷却期間を置かれたことはあったから、その間にそうすることも出来たはずなのに、結局他の誰にも触れることは無く今に至っている。  編集者からも、冗談か本気か、妻以外に興味を持つことを勧められたことがあるけれど────。
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