101人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「……気が済んだ?」
いくら探しても知ったほくろの他は疑わしいものは何も無く、ほっとする反面で自己嫌悪を感じていると、彼女の声がして我に返った。
「……ああ」
溜息をついて、彼女は背中を向けて体を起こす。
「……って言っても、痕が無かったからって潔白の証拠にはならないでしょ。……どうする?」
「どうする、って……」
「……いっそ別れる?」
乱れた髪を掻き上げて、顔だけ振り返って彼女は言う。
「何かあるたびに、疑って不安になったりするくらいなら、あたしが居ない方がいいんじゃないの?」
「……君が……」
その方がいいなら、と言えるなら、そうした方がよほどこの人のためになるのかも知れないけれど。
「……君がどう思ってても、あいにく僕は別れる気は無いよ。だから、こうやって迷惑をかけて、困らせてる」
彼女はぱちぱちと眼を瞬かせて、それからふっと笑った。
「可笑しいかい」
首を振って彼女は言う。
「貴方がいいならいいけど。……じゃあ、それ取って」
と、僕の足元にある脱がせたものを指す。
「ああ……」
渡してやると、受け取って胸に抱えてまた背中を向ける。
その頼りない後ろ姿を見ていると、どうにも切なく痛ましい思いがして、腕の中に抱きしめた。
最初のコメントを投稿しよう!