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「……どういうつもり?」
「……夫が妻に触れるのに、理由が必要かい」
触れた肌や髪は思ったよりもひやりとしていて
「やっぱり冷えてるじゃないか」
「そりゃ貴方が念入りに見てたからでしょ」
口を尖らすように彼女は言う。
「……それは僕が悪いが、寒いならそう言えばいいだろう」
足元から布団を引っ張って来ると、彼女を抱いて横になって肩まで引き上げた。
体温を移すように抱いていると、彼女が言った。
「……何してるの」
「風邪でも引かれたら困る」
「いいの?浮気してない証拠は無いのに、こんなことして」
「まだ疑って欲しいのかい」
「そうじゃないけど。潔癖の貴方が、それでいいのかと思って」
彼女の髪を撫でて、思う。
不思議に自分の中で矛盾は無い。
もしかしたら、疑心暗鬼に囚われながらも、全く別のところでは無条件にこの人を信じているのかもしれない。
彼女の頬に手を置いて、僕は言った。
「……もしも君が、他の男と過ちを犯してきたとしても、その事実を突きつけられて、だから別れたいと言われるまでは、僕は君を傷つけるようなことはしないし、出来ないよ。……自分の過失で風邪を引かせたりしたくないのも、そういうことだよ」
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