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沈黙が落ちると、風の音が聞こえた。
もうほとんど葉の落ちた木々の枝を揺する乾いた音を聴きながら抱いていると、肌の冷たさが消えて柔らかい温もりが感じられてくる。
このまま一緒に眠ってしまいたくなるけれど、冬の夜に裸では冷えるし、かといって服を着るように促せば、その後も僕がこのベッドに居座る理由は無くなる。
などと勝手なことを考えていると
「ねえ」
腕の中で彼女の声がした。
「……ん?」
「……このままじゃ、眠れそうにないんだけど」
「……悪い」
体を離そうとすると、頬をつねり上げられた。
「っ……」
「疑われたことは怒らないけど。貴方の性格は分かってるから。でも今のは怒る」
「じゃあ、どうしろって言うんだ」
「言わなきゃ分からないの?」
くるくるとそれ自体ものを言いそうな、少し茶色がかった眼が僕を見上げる。
「……嫌じゃないのかい。こんな……僕なんかと」
溜息をついて彼女は言う。
「嫌なら言わないし、そもそもこれで怒るぐらいならとっくに別れてる」
……正論過ぎて何も言えなかった。
「だから」
言いかけた彼女の唇を塞いだ。
いくら最低な夫でも、それ以上言わせることはしたくないと思った。
唇を重ねて濡れた舌先が触れ合った瞬間、自分の中で何かが弾けた気がした。
それは彼女も同じだったのかもしれない。
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