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「……おはよ」
翌朝。
彼女は普段通りの時間に起きてはきたけれど、あくび混じりの声をしていた。
「おはよう。弁当出来てるよ」
「……ありがと」
台所の後片付けをしていると、食卓に就いた彼女が小さく笑うのが聞こえた。
「どうかしたかい」
「なんでも」
食べ始めた彼女にお茶を淹れて出すと、顔を上げずに言った。
「今日は帰りは普通だから」
「分かった」
それからは黙って食べて
「ごちそうさま」
と席を立った。
「弁当は」
「出る時にもらうから大丈夫」
作った方としては、忘れられそうなので早く目の前から消えて欲しいところなのだが、いつものことだ。
食器を片付けに行くと、綺麗に空になっていてほっとする。
出汁巻き卵に大根おろし、なめこの味噌汁。
あり合わせだけれど、彼女の好物で揃えた朝食。
これを残されたら、よほど疲れて体調が悪いか、昨日の件を怒っているかと気にしなければならなかったところだ。
こんなご機嫌取りをするくらいなら、最初から素直に出張くらい認めてやればいいのに、それが出来ないからいつまでもこんなことをしている。
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