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「いってきます」 「いってらっしゃい。弁当は」 「持った」  彼女が出た後、ゴミ出しのために玄関に行くと、ふと見た靴箱の扉を兼ねた鏡の中に赤い痣を見つけた。  シャツの襟からはみ出した痣は昨夜彼女がつけた歯型の一部だ。  まだ生々しい色をしたそれは少し腫れていて、時折思い出したように疼くので存在を忘れることはないけれど、それでもこうして目の当たりにすると鏡に映った自分の頬がわずかに緩む。  なんでこんなことをしたのか、考えれば理屈はつけられるだろうし、仮にも創作など生業にしている身ならそれは簡単なことだろうけれど、これについてはそうはしたくない気がした。  ただ、彼女の置き土産のように大切にして。  いつか昨夜の記憶がお互いに薄れて、また疑心暗鬼に囚われるようなことがあったら、箱から取り出して眺めたいような、そんな想いがした。  そっと触れるとぴりりと傷むそれは、誰も見ないだろうとはいってもそのまま外に出るのは憚られて、また、誰にも見せたくない気がして。  まだ今年は使っていなかったマフラーでも巻いて出ようかと考え、一旦ゴミ出しは中断して部屋に戻った。   『雷鳴・告白・痣』了
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