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「――――あ」
ぽつりと冷たい滴が顔に当たって空を見上げると、真っ黒な雲が広がっていて、遠くでゴロゴロと嫌な音がしていた。
図書館で彼を見かけた数日後。
今日はバイトも無いし、早く帰って卒論を進めようと、授業が終わってすぐに学校を出た直後のことだった。
そういえば、季節外れの大荒れの天気とか、昨日のニュースでちらっと見たような気が……。
戻って購買でビニール傘を買おうか、でも夏じゃなくコートも着てることだし、駅まで突っ切れないこともないんじゃないか……などと考えていると
「ひっ!」
さっきより大きな雷の音が聞こえて、思わず身を竦ませた。
去年の夏、家の近所の木に落ちる音を耳にして以来軽くトラウマになり、今年の夏もさんざん妹にからかわれた。
……これは、無理かな……。
考える間にも大粒の雨がばしばしと顔に当たって、諦めて学校に戻ろうかと思った時、横から見えない手が差し伸べられたみたいに雨が遮られた。
「傘、無いんですか?」
呆れたような声の主は、蓮見君だった。
目が合うと、彼は顔を逸らして前を向く。
「昨日あんなに天気予報で言ってたじゃないですか」
「あ、うん……見たんだけど、忘れてた」
溜息をついて彼は私の前に傘を差し出す。
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