死して初めて気付く愛

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ロンダークとは違い、屋上に流れる風にアーシュの髪がなびいている。 二人の間に今やできた差は大き過ぎる。 それでも追いかけてきてくれたようだ。 「アーシュ・・・」 「私にとってお父さんは、お父さんしかいない」 アーシュは見えないはずのロンダークの傍までやってくると、屋上にあった巨大な資材を魔法で持ち上げてみせた。 おそらくはロンダークのおかげで魔法が使えるようになったとアピールしているのだ。 「さっき言ってくれたよね。 ずっと傍で見守っているって。 あの言葉は嘘だったの?」 「・・・」 確かに自分から言ったことのため何も返せなかった。 「私、お父さんのおかげでまた魔法が使えるようになったんだよ」 「・・・」 ロンダーク自身もアーシュやフィオラと離れたいわけではない。 だが自分がいつまで存在していられるかの保証がないだけなのだ。 「ねぇ、お父さん。 何か言ってくれないと分からないよ」 ロンダークは深く息を吐いて言った。 「嘘じゃない。 俺が生きている限りずっと傍で守ってやるっていうのは本気だし、そうするつもりだ」 「本当に?」 「あぁ、もちろんだ」 「じゃあ、どうしてあんなことを言ったの?」 「それは・・・」 不安な表情を浮かべるアーシュに、もう黙ってはいられなかった。 「・・・見えなくなってしまったからだよ」 「・・・」 「見えない俺を世間は父親とは認めないだろう。 影ながら支えることはできるかもしれないけど、それだけだ。 それならちゃんとした人に二人を任せたいと思ったんだ」 「そんなの勝手だよ! たとえ見えなくても、お父さんはお父さんだよ!」 「・・・アーシュ、ありがとな」 色々と思うことはある。 アーシュの言葉は素直に嬉しかったし、本当は離れたくなかった。 だからアーシュの言葉に頷こうとしたところで不安が過る。 ―――アーシュの言葉を尊重したとしても、もしある日突然俺が消えたらどうなる・・・? ―――それならやはり、誰かに任せた方がいいんじゃないか? そう己の中で葛藤しているとアーシュが下を見ながら言った。 「あれ? あの人さっきのお医者さんじゃない?」 「ん?」 ロンダークも屋上の柵越しに見下ろした。 確かに病院の外へと歩いている医者の男が見えた。 だがどこか様子がおかしい。 「本当だな。 一体何をしているんだ・・・?」 医者の隣は二人の男が脇を固めている。 しかもその男たちがどう見ても堅気の人間には見えなかった。 ―――ボディーガードか殺し屋、か・・・? ―――スーツ越しにでも見える筋肉の盛り上がりはまともな鍛錬で作れるものじゃない。 ―――おそらくは魔法を利用した肉体の改造。 ―――だが何故医者の先生を・・・? 不可解であるが見ているうちに三人は裏路地へと消えていった。 「アーシュ、集音魔法は使えるか?」 「え、何それ?」 「風のマナを操作すれば音には道筋が作れるようになる。 少しばかり調整が難しいが、今から父さんがやるのをよく見ていなさい」 「う、うん!」 ロンダークの身に異変を感じるようになったのは、アーシュに学校で魔法を教えてからだ。 もしかすると魔法の使用が魂魄に悪影響を与えている可能性もあるが、迷ってはいられなかった。  緩やかな動きで魔力を練り上げると、消えていった裏路地と病院の屋上を風のチューブで繋げるイメージで魔法を行使した。 「凄い・・・ッ! 全然、魔力波に乱れがない・・・」 アーシュはそれを見て素直に感嘆の声を上げた。 「効率化は魔力の消費と効果に直結するからね。 アーシュもなかなか見事だったけど、まだまだ精進が足りないかな?」 「うん、頑張るね! それで・・・」 二人は耳を傾ける。 そこでとんでもない話を耳にすることになった。
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