切断

1/1
前へ
/1ページ
次へ
最近、向かえの旦那さんを見掛けないと思っていたら、事故に遇って仕事を休み、引き籠りがちだったのだと云う。 何でもタクシーに跳ねられて脊髄に損傷を負い、タクシー会社に三千万円の賠償金を支払わせたらしい。 旦那さんは、そのお金で家を新築したが、まだ思うように歩けず自宅でリハビリする毎日を送っていた。 ある夏の熱帯夜、遠くから鳴るチャイムの音を聞いた。 仕切りに鳴り響くチャイムを煩く感じ、窓から外を見ると、向かえの家の入り口に人影が見えた。 しかし人影の背丈が自棄に低い。 闇の中に漂う人影を、目を凝らして凝視した。 するとそれは下半身…と云うか大腿から下の、二本の足だけの人影だった。 ああ、事故に遇う前の旦那さんが帰って来たのだ、と思った。 が、後で聞くと、旦那さんを跳ねたタクシーは以前にも事故を起こしており、轢かれた人物は両足を切断して亡くなったのだと云う。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加