窓のない部屋

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窓のない部屋

 ボイラーの音だろうかーー  夢うつつのなかでそう考えた。ただどういうわけか無性に眠く、瞼が重くて目を開けることができないでいる。意識は遠のき、私は眠りに落ちた。いつもは寝心地のよいベッドだったはず。だが、今日は電車の中で居眠りしているような感覚で首に痛みを感じた。  次に目を開けた時も同じ音で目を覚ました。機械の発する不協和音のノイズに不快な感情を抱きつつも私は腕を組みなおし、再び目を瞑った。 「ちょっと。ちょっとあんた」  誰かに肩を大きく揺すられた。 「ちょと、起きてくんないかな」  私は男の声に目をあけるものの、蛍光灯がやたらと眩しく目を細めた。 「あんた、大丈夫か?」  大丈夫か? 大丈夫といえば大丈夫だ。しかし、この状況はいささかおかしい。なぜ家でもない場所で、パイプ椅子に座った状態で寝ていたのか、さっぱり思い出せなかったからだ。おぼろげな記憶の中で、赤い髪の毛がちらついた。  そうだ! 私は赤い髪の女を探していた。商業施設で万引きを働く容疑者の女だ。私はすっくと立ち上がると慌てて自分の身体を探った。白いTシャツにスエットズボンと身に覚えのない服を着ている。なによりも刑事であることを証明する警察手帳に携帯電話、もっとも大切な拳銃がなくなっているではないか。警察の拳銃が犯罪などに使われてしまっては大問題だ。世間をゆるがすほどの一大事に私は凍り付いた。何としてでも、拳銃だけは探し出さなければならなかった。
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