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ほとんどそれは当たっている。
「ええ、今ごろ連休の旅行の案を出せって、無茶ですよ!」
「もう日が無いのに、旅行したことってないんですか!? 今さらどこだって満杯で取れるわけ無いでしょう!」
「イベントとか、冗談じゃないって。そこまでしなきゃなんないんですか? 後はそれぞれ楽しんでもらえばいいでしょ、旅行先の幹事の仕事って夕食の世話位なもんでしょ?」
「だいたい任せていいとか調子のいいこと言ってたくせに」
「忙しいオフィスの人になんか聞きづらいって!」
ジェイとまさなりさんの案がご破算になったことで、一から計画の立て直しが必要になった。だからジェイは蓮に言われた通りに3人に話を持ち掛けたのだ。
だからと言って大変な状況にある花に相談することも出来ない。花のことだ、3人を怒鳴りかねない、自分のせいで。
店が終わって帰宅してからジェイは泣いた。蓮に食ってかかった。
「あんなこと言うから! だから考えてって言ったんだ。そしたら……あんなに怒るって思わなかった、社員旅行なんて無理だよ、もう」
「最初からお前が甘かったんだ、だからこうなった。そうは思わないか?」
「そうかもしんない、けど、けど、みんなの言う通りだよ、今さらどうしたらいいかなんて」
「それで『今年は社員旅行はありません』って言うのか? 本当にどうしようもないのか?」
「だって! だって、みんなやる気ないもん!」
「じゃ、自分たちで今年は社員旅行はしないって言わせるんだな」
「そんな…… それじゃ投げっ放しになっちゃう」
「連中にもいい勉強になる。部外者に預けっ放しだとこうなるってな。なにも考えなかった自分たちが悪い」
「俺には蓮が冷たい人に見えるよっ」
その夜はジェイは小さい方のベッドに寝た。あれきり蓮のフォローの言葉も無かったからだ。
(ジェイは慣れていない、きつい言葉ってもんに)
助言は容易いだろうが、蓮は敢えて厳しい道を選んだ。ジェイは庇われることに慣れきっているから。
次の日は蓮が怒ってジェイを仕事から締め出した。
「そんな顔で客商売するんじゃない!」
「分かったよっ」
源も眞喜ちゃんも匠ちゃんもジェイの反応に驚いた。そのまま本当に出て行ってしまったからだ。
「蓮ちゃん、いいの?」
「すまんな、みんなにも嫌な気持ちをさせて。今は我慢してもらえないか?」
「いいけど。でも困ってるんなら俺たち相談に乗るよ」
店を出てもなにもやることがない。家にもいたくない。だから、思い立って翔の所に見舞いに行くことにした。今は2時過ぎ。時間的に中途半端にお腹が空いているだろうと思う。美味しい、と聞いていたパン屋でカレーパンとジャガマヨパンを買った。翔も花と同じで甘いものが苦手だ。
「こんにちは! 起きてて良かった!」
「先輩! こんなどうしたんですか?」
「お土産、買ってきたよ。カレーパンとジャガイモのパンとコーヒー」
「うわ! カレーパン久しぶりだー」
ベッドを起こして座った翔を見て、愚痴をこぼすのを止めようと思った。
「お店暇だから来たんだよ。どう?」
「二度目の手術が上手く行ったんで、今リハビリです。花さんが厳しくって」
翔がぼやく。
あれこれとお喋りしている内に翔が若い社員のことを話し始めた。
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