バーベキュー

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   ちょっとしたひと騒ぎが落ち着き、やっと蓮も自分を取り戻した。その時、Annaは陽子の顔色が悪いことに気づいた。 「Yoko、どうしたの?」 「いえ……なんだか気分が……」  立ち上がった陽子がトイレへと急ぐ。その後を浜田が追おうとした。 「Hiroshi、私に任せて」  後を追っても女性トイレに入るわけにも行かない。浜田はAnnaに託した。 「すみません、お願いします!」  Annaは洗面台でえづいている陽子を見た。 「Yoko、大丈夫?」 「……、なんとか、……ごめんなさい、ちょっと気分が」  Annaは目を見開いた。 「Yoko、あなた、赤ちゃんが出来たんじゃないかしら?」 「え?」 「私には分かるの。Oh!hallelujah(ハレルヤ)! おめでとう! Hiroshiが喜ぶわ!」  思わず陽子は叫んだ。 「待って!」 「どうしたの?」 「だって、だって、違うかもしれないし」 「いいえ、どれだけの妊婦さんを見てきたことか。それはね、赤ちゃんが訪れた印よ」 「ひろちゃんには言えない……本当かどうかも分からないし、……彼には……言えないの」 「なぜ?」 「彼には……亡くなった子どもがいて……だから」  Annaは陽子の両手を握った。 「Yoko、神さまは命を奪うわ。それは事実。でもね、命をくださるのも事実なの。そうね、信仰の問題じゃない。でもこの際だから神さまのせいにしちゃいましょう? ね?」  不安でいっぱいの陽子をAnnaが抱きしめる。夫に妊娠を告げて。そしてもし、もし、万一何かがあったらきっとあの優しい夫は壊れてしまう……  それが陽子は怖かった。  Annaは1人で戻った。 「あの、陽子は?」 「ちょっと時間をあげてね。少し体調が悪いの。Yume! Yume、力を貸して」  何ごとかと案じる浜田を置いて、Annaはゆめさんと陽子の元へ戻った。 「ゆめさん、……ああ、どうしよう、ゆめさん……」  以前、ゆめさんは浜田の話を聞いている。陽子は自分の不安を、恐怖を話した。 「怖いの……だって、無事に育たないかもしれない…… 自分でも妊娠じゃないかって思うの。でもね、怖い、怖いの……」  ゆめさんはその小さな体で陽子を抱きしめた。 「あなたの気持ち、分かるわ。まさなりさんしか知らないけど。花はね、一度流産しかけたのよ」 「え、花が?」 「そうよ。それは私の不注意。私は幼くて自分の体のことをよく分かってなくて。走って躓いて転んだの。4ヶ月の頃だった。真っ青なまさなりさんの顔を今でもはっきりと思い出すわ。でも花を見て分かるでしょう? とても流産しかけた子どもには見えないでしょう?」 「ええ」 「大丈夫。あなたは強いわ。愛の重さも充分知っているもの。そんなあなたの赤ちゃんが生まれてこないわけがない。ね、浜ちゃんにもこの幸せを打ち明けないと。あなたたち2人の世界に新しい住人が増えるのよ」  陽子はゆめさんを見た。そしてAnnaを。そこには、今の自分と同じ『母親』がいる。 「私……負けたくない……ひろちゃんに赤ちゃんをあげたい。喜んでもらいたい。喜んでくれるかしら……」 「もちろんですとも!」 「もちろんよ!」  2人の母親に付き添われて、陽子は浜田の元へ向かう。愛しい夫にこの喜びを伝えるために。  
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