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「陽子っ、どうした? 具合悪いのか!?」
近づいてくる陽子を待てずに浜田が寄ってきた。
「あのね、ううん、たいしたこと」
「陽子ちゃん」
そっとゆめさんが手を撫でた。Annaが背中に手を当ててくれる。
「陽子?」
「……報告があるの」
「なんだ?」
「…………」
「どうしたんだよ」
「赤ちゃん……が出来たと思う……」
「あか……」
浜田は何を言われたのか理解が出来なかった。だが徐々に意味が浸透してくる。疑問が起きる。なぜそんなことを言われているのか。フラッシュバックが起きる、頭の中で、電話の音が鳴る……
「ひろちゃん、あのね、確かじゃないから。だから」
「俺に……子ども? この俺に子どもが?」
Annaもゆめさんもなにも言わない。なにがあったのか、と近寄ってきた蓮も黙っている。今は夫婦が話す時間なのだから。
「俺が……ちちおや……」
ほぼ陽子が目に入らずに呟いていた浜田が陽子を見つめた。
「俺に、俺たちに子どもが出来たって言うのか?」
「あのね、」
浜田は陽子の両腕を掴んだ。
「答えてくれっ、陽子、そうなのか?」
唇を噛むようにぎゅっと陽子は口を閉じた。震える。夫は怒るのだろうか、呆然としているのだろうか、自分を遠ざけてしまうのだろうか。
(言わなければ良かった? ひろちゃん、壊れちゃう? 私が、壊す?)
「陽子、答えてくれ」
陽子は頷いた。
「そうよ。赤ちゃんが出来たって、そう言ったの」
これが夫婦としての分かれ目かもしれない、陽子はそう思った。
浜田は周りを見回した。なにも知らずにわいわいバーベキューを楽しんでいる仲間たちを。家族を。
「みんな! 聞いてくれ! 聞いてほしいんだ!」
「ひろちゃん?」
突然の大声に、みんなが振り返る。浜田がそんな大声を出せるとは誰も思っていなかったほどの大声だった。
「聞いてほしい、俺に赤んぼが出来るんだ! 子どもが出来るんだ! 俺、俺、父親になるんだ!」
しぃんとした中に手を叩く音が鳴った。
「おめでとう! なんて素晴らしい日なんだろう! 君たちは私たちに幸せを分けてくれるんだね?」
その叩く音に蓮が加わる、花が、哲平が、ジェイが、みんなが手を叩く。歓声が起きる、肉も野菜も放ったらかして浜田と陽子を取り囲んだ。
「おめでとう!」
「でかした! 陽子!」
「やったな、浜田!」
「男か、女か?」
「名前どうする?」
口々にいろんな言葉が飛び出す。浜田は陽子を抱き上げた。
「陽子、俺、父親になっていいんだよな?」
「ええ、ええ、ひろちゃんがお父さんよ!」
「俺が父親…… みんな! 俺たちに赤んぼが出来るんだ!」
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