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哲平は浮かれ切っている。
「父ちゃん、これで何人目?」
「何人目でも10人超えればもう関係ないさ! みんな父ちゃんの子どもで、お前の弟や妹なんだ。分かるか?」
「分かる! 陽子お姉ちゃんに優しくするね。いろんなお手伝いする!」
「そうしてくれ。お腹に赤ちゃんがいる時は特に大事にしないとな」
アルコールを飲んでいないのはごくわずか。その中に幹事がいる。花がすぐに休日でも診てくれる産院を探し、電話で確認を取った。
浜田と陽子は谷崎の運転で病院に向かった。すぐにでも確かめたい。
残った者たちは祝杯をあげた。まさなりさんは前田に頼んでワインを持ってきてもらった。夜の宴会で出そうと思ったものだ。ついでに岸和田に電話して、夜に間に合うようにシャンパンとノンアルコールシャンパンを送って欲しいと頼んだ。
「いいなぁ、今日は最高だ!」
何度目かの誰からともない呟き。
「浜ちゃんが親父かぁ」
「陽子似だといいな!」
「へらへらしてたら完全に浜田の血だな」
そんな言葉が出る。
当然蓮も大喜びだ。そしてすぐに浮かない顔をしたジェイに気づいた。
「どうしたんだ?」
「蓮、俺……」
言わなくても分かった。いつも誰かのおめでたの話が出るとこの顔になる。
「バカだな。家族の子どもなんだ、俺にはそれで充分なんだよ。いつもそう言うだろ?」
「うん……ごめんね」
「謝ることじゃない、お前がいいんだ」
咳払いがした。Annaだ。
「あのね、ジェイ、Renji 。そういう話はどこかでしてちょうだい。SyoもYukaも困ってるでしょう!」
この空気の開放感のせいだろうか、今日の蓮は特に気が緩んでいるらしい。またもや赤い顔になって、伏し目がちの翔と優香に小さく「すまん」と言った。2人とも笑うのを堪えている。
「いいですよ。夫婦仲のいい見本になります! な、優香」
「初めて聞いた時は私も驚いちゃって。でもこうやって見てると幸せそうだなって思います! すごく素敵です、自然で開けっぴろげで」
「開けっぴろげ過ぎです! 反省なさい、2人とも」
Annaにビシッと怒られて、2人とも言葉通りに反省している。Annaは(2人から目を離しちゃいけないわ)と自分の役割をしっかりと把握した。
しばらくして戻ってきた夫婦の顔は上気していた。何を言わなくても分かる、そんな表情だ。再びみんなは「おめでとう!」と叫んで何度目かの乾杯をした。
今日の陽子はお姫さまだ。匂いが気になるだろう、と少し離れた場所に借りてきた椅子を用意され、浜田が何を食べたいか聞いて陽子に運ぶ。
子どもたちが周りを囲んでそっとお腹を触っていく。
「まだ何も変わらないのよ」
「赤ちゃんが動くのはいつ?」
「そうね……7月になってからかな? もうちょっと先かもしれない」
「じゃ、その時にまた触らせてね」
女の子は特に気になるのだろう、ほのかも飲み物を運んだり、花音や和愛はタオルを持ってきたり。
そんな様子を誰もが微笑ましく見ている。
まさなりさんはしっかりとこの日差しの中の穏やかな陽子の顔を心に留めた。
(家に戻ったら描きたい!)
その瞬間が待ち遠しい。
井上夫妻がもたらした朗報は、すぐにメールで今日参加できなかった者たちに知らされた。陽子の携帯に数通のメールが届く。
ありさからは『やったね!』、池沢からは『うんと旦那に甘えるんだぞ』、柏木はベルギーから『陽子に似ますように!』。
浜田がちょっと不貞腐れた顔をし、陽子が吹き出し、そこに明るい笑顔があった。
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