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珍騒動
バーベキューが終わってバスは一路社員寮に戻った。
ここで、幹事が部屋割りの変更を伝えた。始めの部屋割り表について哲平は蓮から忠告され、哲平から却下となったのだ。
「俺と優香ちゃん、広岡と凛子ちゃん、蓮ちゃんとジェイとAnnaが同じ部屋じゃまずいだろ!」
配慮が足りなかったと、改めて部屋割りが発表されることになった。
「すみません、幹事の不手際です。新しい部屋割りはこうなりますのでよろしくお願いします!」
取り返しのつかないことじゃない。これも新人幹事のご愛敬だ。
新しい部屋割りでは、しっかりものの莉々が世話係になって優香と凛子ちゃんとAnnaが同部屋になった。これなら安心だ。
みんな荷物を解いて疲れを癒すために風呂に入る。蓮は今回こそジェイをまともに入らせるために、家族風呂ではなく他の男性陣とも混じって男風呂に入ることにした。
ここでちょっとした珍騒動が起きる。まさなりさんの入浴だ。
「家族風呂にした方が良くないですか?」
「いや、私も皆さんと一緒に入りたい」
まさなりさん、ゆめさんに関しては、何かあれば必ず花に連絡するよう幹事たちは厳命を受けている。すぐに花が来た。花にしたらとんでもない話だ。だがまさなりさんはこれを楽しみにしていたらしい。頑として譲らない。
「花、私も『男風呂』というものに入りたいんだ」
ゆめさんとの旅行では家族風呂にしたり貸し切りにしたり。面識のない人との入浴を体験したことが無い。だがせっかくの顔馴染みとの入浴が出来る。こんな機会はまたとはないだろう。
「しょうがない……いいよ、その代わり俺も一緒に入る」
まさなりさんは目をキラキラとさせた。
「花と一緒に!?」
「花月もね」
(野放しにして堪るか!)
「真理恵ちゃんたちは」
「家族風呂!」
それで納得をしたらしい。まさなりさんは支度をして、廊下で待っている花に合流した。脇にはゆめさんがいる。
歩き出すと、ゆめさんが一緒についてきた。
「母さんはあっちだよ」
花は反対側を指差した。家族用の風呂の入り口で真理恵が待っている。
「なぜ?」
「私たちが離れることは無いよ、花」
目が点になった花は次の瞬間泡を喰っていた。この両親は男風呂を混浴と勘違いしているのではないだろうか。
「母さんは真理恵たち入るんだよ」
「でも花、まさなりさんは向こうに行くわ」
「私たちは離れたくないよ、花」
「だめ! どう言おうとだめ! 父さんが入るのは男風呂なんだよ!?」
「花。男とか女とか。そういうものに拘ることはないんだよ。みんな『人』だ」
「父さんっ! ここだけはその哲学を捨ててくれ! 頼むから、俺をこれ以上困らせないでくれよ!」
通りかかったジェイと蓮。話を聞いて蓮は(花も気の毒に)と思いはしたが、まさなりさんを説得するいい言葉が浮かばない。
「まさなりさん! ゆめさんと別々のお風呂に入って、どんなだったか教えっこするのはどう? きっと楽しいよ!」
「おお……ジェイ、それは楽しそうだ。ゆめさん、どうかな?」
「そうね……ええ! 花音や風花の様子をまさなりさんに報告するわ」
「じゃ、私は花と花月の報告を。私たちは2倍楽しめるということだね」
「ジェイ、ありがとう! 助かったよ!」
どんな報告をしあおうが、2人が一緒に男風呂に入るよりよっぽどマシだ。
「一緒じゃなくて可哀そうだけどこれはしょうがないよね」
「お前がまともに見えるよ!」
せっかく蓮に褒められたのに、ジェイはぶすっとした顔になった。
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