祝杯

2/2

423人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
   ところで、河野夫妻。蓮はジェイの成長を喜んでいた。風呂でも夕食でもきちんとした振る舞いをしていたからだ。風呂では少しジェイの視線が泳ぐことがあったが、浴槽でもちゃんと度を過ぎずに出たし、扇風機も普通に使った。だが蓮はジェイの心の中までは知らない。 (まさなりさんと花さんは立派だけどあんまり変わんないんだね。親子だからかな。柏木さんいないし、蓮が一番立派な気がする!) そんな楽しみ方をしていたなどと露知らず……  食事に関してはジェイは本当にきちんとしていた。時々醤油を垂らしてはすぐに拭き取ったからどうということは無いし、蓮が刺身を食べる時に小皿にソースを入れたのは先に飲んだシャンパンでふわっとしていたせいだ。だからすぐに蓮は許した。そのシャンパンもすぐに蓮のお腹に入ってしまったから、ジェイはそれ以上酔うことは無かった。  あまり美味しくなかった唐揚げを蓮の皿に引っ越しさせたのは蓮がトイレに行った間の出来事だし、ついでにピーマンを蓮の炒め物の中に紛らせたのも、すでに酔っぱらっていた蓮にはたいしたことじゃない。  まさなりさんも風呂では立派に入浴をこなした。花の真似をきちんとし、花に背中を洗われた時は大感激し涙を落した。花の体を洗う時にはつい昔をなつかしんで、「はい、お手々を上げましょうね」と言い、「もういい!」と花に睨まれたが、幸いなことに周りには花月しかいなかった。花月はまさなりパパに背中を洗ってもらい、「手は上げないから」と先に宣言した。  一つ風呂に浸かり、機嫌の治った花と他愛ないお喋りを楽しみ、上がってからも花の真似をする。 「パウダーは要らないのかい?」と聞いてまた睨まれ、湯上りに飲んだコーヒー牛乳の旨みに圧倒され、けれどケースで仕入れないと約束させられ、小さい試練はあったものの、ほぼ成功と言えた。飲もうとした2本目は、花月に取り上げられた。  ゆめさんは、同じく真理恵の真似をしつつ助けられた。入浴にはAnnaも加わった。ゆめさんもAnnaもつつましく恥じらいを持って風呂を終えたので、さして問題なく進んだが、やはり2人ともコーヒー牛乳で行動が止まった。目を見合わせてその美味しさに浸る。Annaもゆめさんも、最後の日に自分へのお土産として数本買う予定だ。ここにしか無いと思っている。  季節としては夜の散歩に適していて、それぞれのカップルが外の空気を楽しむために出ていた。  石尾と凛子ちゃんは結構遠出をした。そこでひっそりとキスを楽しむ。 「お義父さんが婚約を許してくれるなんて思わなかったよ!」 「健ちゃん、頑張ったもん」 「お義母さんが応援してくれたのが良かったんだよ」 「健ちゃんのご両親も許してくださったし」  一番の難関の石尾の両親は、最後まで反対をしていた。石尾はその実態を凛子ちゃんには知らせていない。石尾の方が『縁を切ったって構わない!』とまで言い切り、それで両親が折れた。そのまま凛子ちゃんの両親との席を設け、それ以上の反対の機会を奪う。親の性格をよく知っているからこその計略的結婚だ。  翔と優香は寮の敷地内のベンチに座っていた。互いに体を預け合い、井上夫妻の熱に当てられたように子どもの話に熱中していた。 「最初は女の子がいいわ。育てやすいって聞いたの」 「2番目も女の子がいいな。姉妹って可愛いって言うよ」 「じゃ、男の子は3番目ね」 「そんなに産んでくれるの!?」  優香は頬を赤らめた。 「だって……翔さんの子どもなら何人でも欲しいもの」 「ありがとう、優香。俺、幸せだよ」 「私も」  互いの頬へのキス。それ以上進むと引き返せなくなりそうで。  
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

423人が本棚に入れています
本棚に追加