2日目

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   配られたタオルがぐっしょり濡れるほどの暑い思いをし、水のペットボトルが空になるほど喉が渇き、それでも説明を聞いてとんぼ玉を作りながら、澤田はなぜこんなことをしているのだろう、と自問自答していた。 (桜井に縛り付けられている橋田が可哀そうだから……それは確かなんだけど、ここまでする必要があるか? なんでだ?) 単なる『同僚だから』という言葉でここまで酔狂なことをするだろうか。  野瀬に聞かれる。 「浜田や完は作る相手がいるから分かるけど、お前なんで作ってるんだ? あ、とうとうそんな相手が出来たか!」 「まさか! なんとなく……この後暇だし」 「ふぅん……」 浜田が追撃する。 「自分のために作るわけじゃないだろう? 誰に作ってるんだよ」 「それは……橋田が桜井のせいで作れずにいるからさ、その代打なんだけど」 「代打ねぇ。こんな思いして、代打なの? ってかさ、こんな思い、普通に出来ないと思うけどね、たかだかその程度の理由でさ」  浜田にそう言われて尚も考える。その考えこむ様子に、ぴん、と来た浜田。 「あのさ、自分の気持ち、正面から見た方がいいと思うよ」 「なに、自分の気持ちって」 「分かるまで考えたら?」  作業が終わってガラス館に戻ると1人ぽつんとガラス細工を眺めている橋田がいた。 「どうしたの?」 「……終わったの?」 「終わったよ。暑くて参った!」 「ごめんなさい」 「いいけど」 『素直じゃん』という言葉を飲み込んだ。さっきの浜田の言葉のせいで、どこかぎくしゃくしていて、相手もぎくしゃくしているということに気づかない。 「桜井たちは? お目付け役、ついに放棄した?」 「若い3人は自分たちで自由行動。桜井さんは他の旅行者の男性たちとどこか行っちゃったわ。ああいうところ、私にはよく理解できないんだけど。でもそこまでくっついていくのもどうかと思ったから」 「放っておけよ。良かったじゃないか、解放されて」 「そうなんだけど」 「なに、やることなくなったの? それで見学ってわけ?」 「……お礼も言いたかったし。この後はなにか食べて寮に戻ろうかって思ってたの」 「寮に戻ってなにすんの?」 「本持ってきたから読んでようかと」  次の言葉もすんなり出てしまった。考える間もなく、だ。 「一緒に食事しないか? せっかくだからあちこち見て回ろうよ。俺も1人だし。レンタカーとか借りてさ」 「え」 「あ、無理にってわけじゃないから。ホントに暇なんだ」 「……昼食、奢らせてくれるなら。あの、お礼も兼ねて」 「いいよ、水臭いって」 「でも」 「じゃ、割り勘! ならいいだろ?」  割り勘になってしまったことに橋田は釈然としないでいるが、それがなぜかが分からない。ちょっとイラっと来ている。ただ、断る理由も無い。 「分かったわ。じゃそうさせてもらう。あ、えっと、ありがとう」 「お前が『ありがとう』って言うの、滅多に聞かない気がするよ」  今回の『お前』に関しては、橋田は何も言わなかった。その代わりその他の言葉はスルーしたが。  2人の珍妙なデートもどきは、互いに不可解な気持ちを抱きながらスタートすることになる。  
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